学びの前に心と体整える 新常態でのスポーツの役割
マセソン美季

カナダでは9月から学校の新年度が始まった。夏休みの最後に教育委員会から連絡があり、子どもを通学させるか、バーチャルスクールに登録してオンライン授業を受けさせるか、という意思確認があった。
通信機器がない家庭には、それらを貸し出す仕組みもある。一時期おさまっていた新型コロナウイルスの感染者数が再び増え始めた時期と重なり、我が家にとっても難しい選択だった。
ここオンタリオ州は日本のおよそ2.8倍の面積で、通学はスクールバスに頼るケースが多い。ところがドライバー自身が高齢、または高齢者と同居しているなどを理由に職場を離れるケースが急増。バスサービスの中止も相次ぎ、学校への送り迎えをどうするか、頭を悩ませた家族もいる。結局、公立の幼稚園、小中高生のおよそ3割がリモート授業を選択した。
知り合いの幼稚園の先生は通園児を担当している。ただコロナ禍の不安は子どもたちにも見られ、国歌を歌って授業開始という今までのパターンでは集中できない子が多いという。
そこから新しい授業のスタイルが考案された。始業前、音楽を流して音色に合わせた動きを体で表現したり、体操をしたり、みんなに伝えたいことをスケッチしたり。オンライン授業を担当する教諭は、始業時にヨガを取り入れた。家族にもストレスがたまっているだろうと考え、その時間は子どもだけではなく、一緒に家にいる人にも参加を促しているそうだ。
両者に共通していたのは、学びの時間の前に、心と体を整える準備の必要性を痛感している点。そして、スポーツや芸術の力を活用して、コロナ禍の中でも新しい学びの形を生み出しているという点である。
東京五輪・パラリンピックの延期開催には今も慎重な意見もあり、ここ数カ月、このコラムに何を書くべきか迷うことが多かった。いろんな人に話を聞けば聞くほど、スポーツができる、できないの不平等が世界で顕在化していると感じた。でも同時に、カナダの学校で行われているように、「スポーツに期待される役割」もあぶり出されてきたことはとても興味深い。

1973年生まれ。大学1年時に交通事故で車いす生活に。98年長野パラリンピックのアイススレッジ・スピードレースで金メダル3個、銀メダル1個を獲得。カナダのアイススレッジホッケー選手と結婚し、カナダ在住。2016年から日本財団パラリンピックサポートセンター勤務。国際パラリンピック委員会(IPC)教育委員も務める。