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企業、70歳まで働きやすく 来春の法改正見据え

変わる働き方の法律(上)

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肌寒くなってきた秋の夕暮れ。幸子と恵が食事していると、会社から帰った良男がいつになくしんみりつぶやきました。「入社の時お世話になった先輩が退職した。自分も50代。引退もそれほど先の話じゃないなぁ」。恵が「そんな言葉、早すぎるよ」と笑います。

筧(かけい)家の家族構成筧幸子(48)良男の妻。ファイナンシャルプランナーの資格を持つ。筧良男(52)機械メーカー勤務。家計や資産運用は基本的に妻任せ。筧恵(25)娘。旅行会社に勤める社会人3年目。筧満(15)息子。投資を勉強しながらジュニアNISAで運用中。

 70歳まで働きやすいように法律が変わったってニュースでやってたよ。

幸子 高年齢者雇用安定法の改正ね。来年4月以降、70歳まで働けるような措置を取るよう企業に努力義務を課す改正よ。

 そもそも今はどうなっているの?

幸子 65歳までの雇用機会を確保できるように(1)65歳まで定年を引き上げ(2)65歳までの継続雇用制度の導入(再雇用制度など)(3)定年制の廃止――のいずれかを実施することを義務付けているの。

良男 企業はこのうちどれを選んでいるのだっけ。

幸子 厚生労働省の2019年集計結果では、再雇用などの継続雇用が78%、定年の引き上げが19%、定年制の廃止が3%。社会保険労務士などは「再雇用の場合、いったん雇用契約を終了して新たな賃金体系で雇用できるなど柔軟性が高いので、多くの企業が選んでいる」と指摘するわ。

良男 来年からの改正法では具体的にどうなるんだ?

幸子 (1)(2)についてそれぞれ65歳を70歳に延ばすのに加えて、(4)70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入(5)70歳まで継続的に事業主が自ら実施する社会貢献事業などに従事できる制度――という、会社の外で働き続けることを会社が支える選択肢を2つ用意したの。この(1)~(5)のうち最低1つを導入すればいいという努力義務よ。

良男 (4)(5)がよくわからないな。

幸子 (4)は例えば個人事業主になって、会社の仕事を業務委託を受けて働くこと。つまり請負ね。(5)は例えば会社などが設立した社会貢献のためのNPO(非営利法人)の活動に、有償ボランティアで参加することなどよ。

 社内での雇用だけでなく、社外で働き続けることを支援する選択肢も作ったというのが新しいわね。

幸子 そうね。ただ(4)(5)については従業員の過半数が参加する組合か過半数代表者の同意を得て導入することが必要よ。

良男 現在の措置は「義務」っていったよね。そして来年からの改正法は「努力義務」。これってどう違うんだい?

幸子 現在の義務の方が法的に強い効果があるわ。具体的には、指導を繰り返しても具体的な取り組みをしない企業には勧告書が出され、それでも従わなければ企業名が公表される場合があるの。

 公表されたら企業イメージが下がっちゃうね。

幸子 一方で改正法については現段階ではそうした公表などの仕組みは決められていないの。まずは制度の趣旨や内容の周知徹底を目指す。導入状況を見ながら、いずれは現在のような公表措置のある義務化が検討される見通しよ。

 来年からの改正法施行って、世の中にどれくらい知られてるのかな。

幸子 日本商工会議所と東京商工会議所が9月に発表した中小企業を対象とした調査では、改正法について「名称・内容ともに知っている」が43%に対し、「名称は知っているが内容は知らない」が39%、「名称も内容も知らない」が17%だったわ(その他は無回答)。

良男 企業はどう対応するのかな。

幸子 同じ調査をみると、「70歳までの継続雇用制度の導入」が56%で最多。この点については現行の法律への対応と似ているわね。新しくできる「雇用しない選択肢」の中では「業務委託契約制度の導入」が17%になっていた。

良男 ともあれ来年4月以降の企業の動きが注目だな。

幸子 ただし改正法の趣旨を前倒しで取り入れようとする企業もすでに現れ始めているの。家電量販店のノジマは7月、定年後も再雇用で80歳まで契約できるとする就業規則の改正を発表したの。発表文では来年4月からの高年齢者雇用安定法の改正を指摘したうえで、「少子高齢化の中で優秀な人材の獲得は会社の成長に不可欠」と書かれていた。社会保険労務士の佐藤麻衣子さんは「改正法は企業の高齢者雇用の考え方に好影響を与えつつある」とみているわ。

良男 しかしあまり長く働くというのもなんだか嫌だな。

幸子 長く働く利点は大きいわよ。働き続ける間の収入確保だけでなく、厚生年金加入で働けば、老齢年金の受給額も増えていく。厚生年金とセットの会社員の健康保険も、病気やケガで働けなくなったときに収入の3分の2がもらえる傷病手当金などがあって有利だわ。

 長く働く方が健康にもいいという話も聞くよ。

幸子 確かに働き続ける人ほど介護状態になりにくいという統計があるわ。65歳以上の就業率が高い都道府県ほど、1人当たりの医療・介護費が低い傾向も出ているの。

 パパにはずっと健康でいてほしいから、できれば長く働いてほしいな。

良男 君ら、うまいこといって、僕を少しでも長く働かせようとしていないか。

「雇われる力」高める


社会保険労務士 佐藤麻衣子さん
 改正高年齢者雇用安定法は当面は努力義務なので、企業によって取り組みが分かれる可能性があります。65歳以降も働きたい場合、自分の勤務先がどのように改正法に対応するのか注意しておきましょう。例えば自分の能力を生かしやすい業務内容で、70歳までの雇用制度を取り入れる会社があれば、そうした会社への早めの転職も選択肢です。
 長く働くには制度改正に頼るだけではなく、自分の価値を高める努力も重要です。最近注目の言葉は「エンプロイアビリティ=雇われる力」。雇用する(エンプロイ)と能力(アビリティ)を組み合わせた言葉で、雇われ続けたり転職が有利になったりするための能力を意味します。専門能力などを現在の仕事を通して高めると同時に、資格取得や健康維持も大切です。(聞き手は編集委員 田村正之)

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