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ホンダ、F1「完全撤退」は必然か

日経ビジネス電子版

ホンダは2日、2021年シーズンを最後に自動車レースのフォーミュラ・ワン(F1)から撤退すると発表した。同日開いたオンラインでの記者会見で、八郷隆弘社長は「新たなチャレンジに経営資源を傾ける」と発言。これまでエンジン開発に割いていた経営資源を、電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)など次世代車の研究開発領域に集中させ、50年までに二酸化炭素の排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すという。

1964年の初参戦以来、撤退と復帰を繰り返してきたホンダ。リーマン・ショックの影響で2008年に福井威夫社長(当時)が3度目のF1撤退を発表したが、15年から再び参戦した。再参戦当初は苦戦が続いたものの、19年シーズンはレッドブル・ホンダが3勝を挙げ、20年シーズンも2勝。良いニュースを耳にする機会が増えてきていたところだったが、4度目の撤退を決めた。

ホンダにとってF1は、単なる広告宣伝効果のあるモータースポーツという位置づけではない。レース用車両の開発から得られる知識と経験を市販車に生かす「走る実験室」という役割も担い、極限状態に挑戦することでエンジニアを育てる意味も大きい。

ただEVやFCV、自動運転など技術開発領域のトレンドはここ数年で急激に変化。世界的な環境規制の強化により、ガソリン車に対する逆風は強まっていた。電動化や自動運転といったCASE対応を迫られ研究開発費を増やさざるを得ない状況の中、数百億円ともされるエンジン開発費用は大きな負担にもなる。

八郷改革の総仕上げ

前回撤退を決めた08年と比べてみても、現在の事業状況はさらに厳しい。四輪事業の売上高営業利益率は20年3月期には1.5%にまで下がり、21年3月期は新型コロナウイルスの影響によりグループ販売台数は450万台と前年同期に比べ約6%減る見通し。事業の立て直しが急務で、多額の資金を必要とするF1の撤退はある意味で「必然」とも言える状況だ。

加えて、このタイミングでの撤退決断にはもう一つの理由が考えられる。八郷社長が大なたを振るって進める事業構造改革だ。これまで、英南部のスウィンドン工場の閉鎖、ケーヒンをはじめとする系列部品会社の日立製作所グループへの統合などを断行してきた。

中でも最も象徴的なのが本田技術研究所の再編だ。20年4月に研究所の四輪部門を切り離しホンダ本体に統合した。開発部門を別会社にする独特のスタイルを60年続け不可侵領域ともなっていた技術研究所。ホンダのDNAとも言える領域にメスを入れた。

八郷社長にバトンを渡した伊東孝紳・前社長の任期は09年から15年までで、その前の福井氏は03年から09年までと、6年での社長交代が続いている。15年6月に就任した八郷社長は今年が6年目で、一連の改革の総仕上げの時期に差し掛かっている。

ホンダにとっては、F1は研究所と並んで象徴的な存在。撤退のアナウンスをすれば、社内外から反発の声が上がることは避けられない。だからこそ決断を先送りして次期社長に託すのではなく、八郷社長が自ら「汚れ役」を引き受けているようにも見える。

1992年の撤退後には「オデッセイ」(94年)や「ステップワゴン」(96年)、2008年の撤退後には「N-BOX」(11年)と、ヒット商品を世に送り出し何度もF1の舞台に舞い戻ってきたホンダ。ただ、今回は「再参戦は考えていない」(八郷社長)と、「完全撤退」になりそうだ。F1に投じていた力を次世代車開発に振り向け、巻き返しを図れるかどうか。次のレースではさらに厳しい戦いが待っている。

(日経ビジネス 橋本真実)

[日経ビジネス電子版 2020年10月6日の記事を再構成]

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