アイルランドの伝説をアニメに、3部作完結

文化往来
2020/10/27 2:00
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「ウルフウォーカー」の場面(C)WolfWalkers 2020

「ウルフウォーカー」の場面(C)WolfWalkers 2020

アイルランドに伝わる神話や民話をアニメーション映画化し、世界から注目を集めたトム・ムーア監督が新作「ウルフウォーカー」(10月30日公開)でシリーズ3部作を完結させた。「アイルランドでは学校でも作品が上映され、自分たちの文化や歴史について考えるきっかけになったと聞く。そろそろ(表現者として)方向を変える時期ではないかと思った」と話す。

アイルランドの国宝「ケルズの書」をもとにした「ブレンダンとケルズの秘密」(2009年)で長編デビューしたムーア監督は、続く「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」(14年)で、アザラシの妖精と人間の間に生まれた兄妹の冒険を描いた。過去の作品で美術監督をつとめたロス・スチュアートと共同監督した「ウルフウォーカー」は、オオカミ退治のために父とイングランドからやって来た少女ロビンが、傷を癒やす力を持つオオカミ人間の少女と出会い、自らの魂がオオカミになる不思議な体験もして、自然や自由について見つめ直す。

眠ると体から精霊が抜け出し、オオカミの姿になるというキルケニーという町の周辺に伝わる民話に触発された。古代アイルランドの人々はオオカミを人間より強いものとして畏敬の念を持って見ていたが、イングランドのクロムウェル軍に占領された17世紀以降、敵視するようになったという。「オオカミを退治しようという時代に、オオカミ人間が本当にいたらどうなるのだろうと発想した。動物は自由の象徴。ロビン自身が自然の一部となることは文明からの解放という隠喩もある」とムーア監督は言う。

森の描写は美しく幻想的でありながら、力強さも兼ね備える。高畑勲監督の「かぐや姫の物語」がヒントになったという。「フリーハンドで描いたアニメーションの自由と勢いを目指したいと思った。これとは対照的に町は直線的に描写してみた」とスチュアート監督。

ムーア監督が学生時代の友人と設立したスタジオ「カートゥーン・サルーン」はこの3部作のほかにも良質な作品を生み出し、米アカデミー賞候補となるなど世界に熱心なファンを持つ。世界から注目されたことによって米国のテレビアニメの下請け、というアイルランドのアニメスタジオ全体のイメージも変わった。「私たちの成功はアイルランドのスタジオの間で、自分たちの物語を作ろう、オリジナル作品を生み出そうという機運を高めたと思う」とスチュアート監督は話している。

(関原のり子)

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