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中部の観光回復に冷や水 エアアジア日本法人撤退

12月に全4路線を廃止することを決めたと5日発表した格安航空会社(LCC)のエアアジア・ジャパン(愛知県常滑市)。新型コロナウイルスの感染拡大による航空需要の低迷で資金繰りが悪化し、マレーシアの本社から支援を打ち切られたことが響いた。中部国際空港に唯一拠点を置く国内航空会社の撤退で観光の回復ペースが鈍化しかねず、中部の関係者の間に動揺が広がっている。

「新型コロナによる厳しい環境下であらゆる施策を講じてきたが、苦渋の決断をせざるを得なかった」

エアアジア・ジャパンの会田純・最高執行責任者(COO)は5日の電話取材でこう話した。事実上の日本撤退に悔しさをにじませた。

同社はマレーシアに本社を置く東南アジア最大のLCC、エアアジアの日本法人。2017年に中部―札幌で初便を運航し、国内線は仙台や福岡、国際線は台北と、徐々に路線網を拡大させていた。ただ、コロナの影響で20年4月~7月末まで全便を運休。8~9月は国内線の一部の便を復便したが、10月は再び全便運休となっていた。

LCCは料金が割安な分、多くの旅客を運んで稼ぐ薄利多売の事業モデルだ。採算ラインに乗る搭乗率は8割程度とされる。ただエアアジア・ジャパンの経営規模で黒字化を果たすには路線網や運航機数を拡大させるしかなく、14年の設立以降から赤字が続いていた。

コロナ禍を受け、愛知県は中部空港内に置く本社の9月末までの賃料として、4400万円の補助金を出していた。ただ同社が県に対し「10月以降は補助の申請をしない」と伝わった9月末から、関係者の間で撤退の様相が一気に強まった。

出資企業の1社であるアルペンは20年6月期にエアアジア・ジャパン株の価値をほぼゼロまで引き下げたとみられる。株主からの追加支援を得られず、スポンサー探しや金融機関の融資も受けられない経営環境のため、資金繰りはマレーシアの本社に頼らざるを得ない状況だった。

こうした中で本社も債務超過に陥るなど経営が悪化し、日本法人の支援に対する余裕がなくなったのが撤退の引き金になった。航空関係者からは「本社が海外の金融機関から支援を受ける条件の中に、日本からの撤退があったのではないか」との声も挙がった。

中部空港は19年9月にLCC向けの第2ターミナルを開設したばかりだ。地元の政財界は第2滑走路の建設も強く要望している。こうした中で同空港に拠点を置く唯一の航空会社の撤退は、コロナの収束後の観光需要を底上げする速度を鈍らせかねない。訪日外国人(インバウンド)の増加で伸びていた中部空港の需要自体を疑問視される風評リスクの懸念も沸いてくる。

常滑商工会議所の牧野克則会頭は「地元の経済をリードする1社として期待していただけに残念だ。できるだけ長い間、一緒に発展をしていきたかった」と話した。中部空港も「着実に路線の拡充をしてきた中、事業廃止の発表は空港会社としても大変残念」とコメントした。

エアアジアの関係者は「コロナ禍前は20年内にも保有機数を現在の3機から5機まで増やす見通しが立っていた。5機になれば黒字化も見えていた」と話す。

ただ、今となっては14年の設立から17年の初就航までの「空白の3年」が悔やまれる側面もある。当局の許認可や安全整備も含めた運航体制の構築に時間がかかり、就航は当初より2年遅れた。地元の航空関係者は「コロナ禍前までにもっと速く採算を改善できていたら、撤退とはならなかったかもしれない」と話した。

(野口和弘)

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