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取引中に日経平均が急落 先物主導の仕組みを解明

売り建て、証拠金、裁定取引 疑問をすべて解消する先物入門

大阪取引所で先物価格を映すモニター

リアルタイムで日経平均株価のチャートを見ていた多くの人が目を見張っただろう。9月30日の12時半。昼休みを挟んで午後の取引が始まると、午前の終値からいきなり125円も下がっていたからだ。日経平均の値動きを示すローソク足の間には、ぽっかりと大きな隙間が生じた。

この急落劇のきっかけとなったのは、日本時間で同日午前11時半頃に終了した米大統領候補のテレビ討論会。米メディアが民主党のバイデン候補の優勢を報じると、先物主導で日本株の売りが急激に膨らみ、それに伴って日経平均が急落した。

こういった「先物主導で日経平均が急落・急騰」という報道を目にすることは多いが、「実際どういう仕組みでそうなるのか」と思っている人も多いだろう。先物とはどんな人が売買しているのかも含め、改めて先物の疑問について考えてみよう。

先物では購入価格と清算価格の差額が利益になる

まずは、株価指数を対象にした先物の仕組みをおさらいしよう。先物の取引には必ず期限がある。期限までに日経平均などの指数が上昇するか、それとも下落するかを予想し、それが的中した時に利益が出る。指数が上昇すると利益が生じる「買い建て」と、下落した時に利益が得られる「売り建て」の2種類の売買がある。両方の取引とも、取引終了日に指数の始値(取引開始時点の価格)に配当などの影響を反映した価格で清算される。

具体的に説明しよう。例えば、期限までに日経平均が上昇すると想定して、日経平均が2万3000円の時に先物を買い建てたとする。先物の取引単位は1枚、2枚と数え、指数の1000倍の値を売買する。日経平均が2万3000円なら、先物1枚の価格はその1000倍の2300万円になる。

その後に日経平均が上昇して、取引終了日の始値が2万4000円になったとする。配当などの影響額を100円としたら、下図のように90万円の利益を得られる。

一方、予想に反して日経平均が下落し、取引終了日の始値が2万2000円になった場合には110万円の損失となり、この額を証券会社に支払わなければならない。

指数が期限までに下落すると予想して、先物を売り建てた場合は損益が逆になる。上記の試算で日経平均が2万2000円に下落したケースでは110万円の利益が生じ、2万4000円に上昇したケースでは90万円の損失を被る。なお、先物の取引は期限を迎える前に、その時点の差額で損益を確定して終了することもできる。

株価指数先物の5つのメリット

下のグラフは今年8月に海外投資家が売買した現物株と先物の内訳だ。先物の売買代金が現物株を上回っているのが分かる。

では、海外投資家が先物を選好するのはなぜか。それは先物には下表に示した5つの利点があるからだ。中でも大きいのが、5番目の少ない元手で大きな金額の取引を行える点。「証拠金」と呼ばれる担保を証券会社に預ければ、代金を支払わずに証拠金より大きな金額の先物を取り引きできる。

証拠金の額は証券会社によって異なり、時期によっても変動する。例えば楽天証券の場合、日経平均先物1枚の売買に必要とされる証拠金の最低額は、10月1日時点で120万円。仮に、前出の先物の買い建てで90万円の利益が出るケースの取引を証拠金120万円で実施したとしよう。この場合、120万円の元手でその約19倍の2300万円の取引を行い、90万円の利益を上げる形になる。その結果、手元の金額は120万+90万円=210万円となり、1.75倍に増える計算だ。

株の信用取引でも、取り引きできるのは元手の3.3倍まで。先物ではそれをはるかに上回る規模の金額を、少ない元手で取り引きできる。その半面、結果が裏目に出たら損失も桁違いになる。その点を勘案して、証拠金を最低額より多く預け、リスクを下げることも可能だ。

日本の株式市場を舞台に少ない元手で大きな利益を上げたい時に、日経平均や東証株価指数(TOPIX)の先物を売買する。これが海外投資家が先物を選好する構図だ。その結果、海外投資家の取引が日経平均先物の取引全体の6~8割を常に占めている。

もっとも、株価指数に連動する先物を売買するのは、投機的な運用を行う投資家ばかりではない。全体相場の下落で保有株の時価が大きく減る事態に備えて、先物を売り建てる投資家もいる。大口顧客との市場外での取引のために株を多く抱える証券会社や、取引先の株を持つ金融機関などだ。

保有株の時価と同規模の先物を売り建てれば、保有株の価格が下がったときには先物で利益が生じ、反対に保有株の価格が上がったときには先物で損失が出る。こうした取引によって、トータルでの資産の増減幅を少なくする。

先物を指数に連動させる裁定取引

ところで、先物は指数を基に算出した価格で清算されるが、株の現物を売買しているわけではない。にもかかわらず、先物が現物株の値動きに影響を及ぼすのはなぜだろうか。それは先物と現物株の双方を対象にした「裁定取引」と呼ばれる売買が行われるからである。

裁定取引は、先物の次のような仕組みに着目した取引だ。先物の価格は売買が膨らむと大きく動き、指数と乖離(かいり)する。しかし、取引の終了日には指数の始値を基に算出した価格で清算されるので、日経平均と先物の価格差はほぼなくなる。

そこで、日経平均と先物を比較して、先物の方が高ければ、先物を売り建て、日経平均の構成銘柄を全て買う。日経平均の方が高い場合は、日経平均の構成銘柄を全て空売りして、先物を買い建てる。これが裁定取引の具体的な内容だ。この取引では、先物の清算価格がいくらになっても、取引を始めた時点の差額が利益として手に入る。

例えば日経平均先物(12月物)の価格は、10月2日の取引開始時点では2万3320円。日経平均の始値は2万3294円で、先物の方が26円高かった。この時点で先物売り、現物買いの裁定取引を仕掛けたとしよう。下の表は3通りの試算結果だ。いずれもトータルの利益は2万6000円になっている。

この試算における取引の規模は、先物の売り建て2332万円と日経平均構成銘柄の買い持ち2329万4000円を足し合わせた4661万4000円。利益は2万6000円なので、利益率は2万6000円÷4661万4000円×100=約0.056%。確実に利益は出るものの、利幅は非常に小さい。

「手数料などの取引コストがかかれば消し飛んでしまう」(楽天証券経済研究所の窪田真之チーフ・ストラテジスト)。その上、日経平均の全構成銘柄の売買にも巨額の資金が必要になる。そのため、大半の投資家はこの取引には手が出ない。裁定取引を主に手掛けているのは、取引コストをかけずに巨額の資金を運用できる大手証券会社が中心だ。

「システムによる売買で裁定取引のスピードも速くなっているので、先物と指数との乖離がすぐに縮まる。そのため、裁定取引の収益性は以前に比べてかなり小さくなっている」。大手証券会社の運用担当者はこう話す。

このように、海外投機筋などによる先物の売買は、証券会社が主に手掛ける裁定取引を介して間接的に日本の現物株の価格を動かしている。「現物株の空売りを禁止していて、裁定取引ができない国の株価指数先物は、指数と大きく乖離したままという状況が起きる。裁定取引によって指数と先物が大きく乖離せずに連動するのは、株式市場が効率的である証拠」(大手証券会社の運用担当者)

裁定取引の効用を東京証券取引所も評価している。「先物と指数の乖離を解消して、両者の連動性を維持してくれるので、裁定取引の役割は重要だ」(同取引所株式部)

裁定取引で海外投資家のポジションが分かる

東京証券取引所では裁定取引に伴う現物株の買い残高と空売り残高を毎週公表している。その推移を示すのが、下のグラフだ。両方とも減少傾向にあるものの、空売りの残高が買い残高を大きく上回っている。

現物株の空売り残高が多くなるのは、海外投資家が日本株に弱気で、先物を売り建てている時だ。逆に海外投資家が日本株に強気で、先物を買い建てている時には、裁定取引による現物株の買い残高が膨らむ。

今年に入ってからの現物株の空売り残高の推移を見ると、2月に増え始め、5月に減少に転じている。まず新型コロナウイルスの感染拡大を受けた相場の急落で、海外投資家が先物を売り建てた。そして5月以降に相場の回復が鮮明になると、売り建ての解消に転じた様子がうかがわれる。それでも、9月25日時点でまだ現物株の空売り残高が約1兆8000億円もある。海外投資家の先物の売り建てがかなり残っていると推定される。

「海外投資家は先物の売り建てを終了するために、先物を買い戻す。それが日本株を下支えする要因になる」。楽天証券の窪田チーフ・ストラテジストはこうした見通しを示している。

(中野目純一)

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著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP (2020/9/19)
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