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バッハが奏でた音 忠実に 古楽器製作工房 平山

匠と巧

モダンチェロを古楽器として復元するため、音に影響する補強材を削る平山さん=松浦弘昌撮影

バッハやヘンデルなどが活躍していたバロック期の楽器は、現在の楽器とは異なる。ピアノに似たチェンバロや弦楽器のリュートなど、古楽器と呼ばれる当時の楽器を製作する「古楽器製作工房 平山」(兵庫県丹波篠山市)の平山照秋さん(71)は、国内に数人しかいない古楽器製作職人だ。

JR福知山線の篠山口駅を降りて、のどかな里山の景色の中をタクシーで15分ほど。工房は平山さんが基礎から手づくりした自宅の一角にある。2階の作業場には修理中の18世紀のチェンバロや、作りかけの弦楽器の木材が無造作に転がる。

平山さんがこれまでに手掛けた古楽器は十数種類、計100台を超える。修理や復元も手掛けるが、一番力を入れるのが一からの製作だ。古楽器は近代に入っていったんは使われなくなったものの、近年は「作曲家が活躍した当時の楽器で演奏したい」という演奏家も多い。平山さんは製材から塗装・彫刻に至るまで、全工程を独力で手掛ける。1つの楽器製作にかかる期間は1~3カ月ほどだ。

一番難しいのは木材の見極めだ。木材には冬目と夏目がある。年輪の色の濃い部分が冬目で、より密度が高く堅い。夏目と冬目のバランスで木の堅さや粘りが変わる。「木が軟らかすぎると壊れやすくなるし、頑丈すぎると音がよく鳴らない」(平山さん)

平山さんは作業台に弦楽器の表板を置くと、一枚一枚手でのみをあてる。刃を滑らせると、薄い木片が削りとられ、わずかに表板が薄くなる。例えば粘りのない木材は丈夫にするため分厚めに加工する。その微妙な加減は経験のたまものだ。平山さんは「ヨーロッパの名のある工房で、ずらりと並ぶ弦楽器の木目が全部そっくりだったのを見たことがある」と語る。それほどまでに木材の質は音を左右するし、調整は難しい。

古書店や博物館で地道に収集した古楽器の設計図面も参考にするが、木材の堅さや粘りはそれぞれ異なるため「どうすればよい音が出るか、最終的には自分の頭で考えるしかない」(同)。たとえば名器と名高いストラディバリウスは当時の設計図面が残るが、「木の違いを考慮せず図面を再現してもいい音は出ない。結局参考になるのは寸法くらい」(同)。その分、作った楽器から思い通りの音が出た喜びは格別だ。

平山さんが最初に古楽器を作ったのは20代の頃。市役所に勤務し、残業漬けになりながら睡眠時間を削って弦楽器のビオラ・ダ・ガンバを製作した。もともとバロック音楽は好きだったが、特にガンバの音色に魅了された。独学で楽器作りを続けるうち、音の良さから注文が広がった。

材料はドイツから仕入れているが、良い木はほんの一握り。「良い楽器を作ろうとする職人を見極めて、良質の木材ばかり集めた奥の一室に案内してくれる」(同)製材所との付き合いは40年以上になるという。音を頼りに往時の音色を求める職人の試行錯誤は続く。

(山本紗世)

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