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クラリネットと尺八共演(音楽評)

「風の息、呼吸する音」

演奏会は庭園に面した座敷で行われた

ヨーロッパには、コの字やロの字形の集合住宅が多く、今、その中庭で演奏会を催す試みが広がっているらしい。では日本ではどうか。今回の演奏会を想像して「ふふ」と思う。そう、日本には古くからの庭がある。9月19日。大津市の「ながらの座・座」で「庭と音楽2020吉田誠クラリネット・コンサート 風の息、呼吸する音」を聴いた。

音楽におけるコロナ禍への対応の仕方にまで、西洋と日本を比較する、無自覚なまでの常識。その前提にあって、この日の主役はクラリネットと尺八。クラリネットの吉田誠と尺八の藤原道山が、同じ縦笛でありつつ歴史も背景も異なる2つの楽器で共演する演奏会だった。

西洋の作品を演奏すれば、まるでクラリネットに聞こえる尺八。それどころか、フルートの音さえする。東洋の作品ではクラリネットが尺八になる。楽器の可能性と奏者の技術力に、ただただ驚愕(きょうがく)、ひたすら驚愕。しかし、尺八が尺八として演奏された時の、息を吹き返したような自由さ、きらめく力に、本来の在り方を知った。それは、確固たる独自の存在。

演奏者は庭と座敷の境にある縁側に立って、庭側から演奏した。私たちは座敷に座った。演奏は、葉が擦れる音や虫の声と混じり合う。そして奏者の足下には大きな池。水の下に空間がひろがる。覗(のぞ)きこむと、鯉(こい)と、揺れる自分。幾重にも重なる、異なる世界の往来。

本演奏会は、コロナ禍に対応して企画されたのではない。長く続いてきたシリーズは、悠然として我々を包む。2つの楽器が持つ伝統は、他者と邂逅(かいこう)し、豊かな作用をもたらした。演奏会から始まる、しみじみ思索する時間。感謝である。

(関西学院大学教授 小石 かつら)

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