「オリザ人脈」舞台に輝き 豊岡演劇祭、縮小も内容充実
文化の風

関西タイムライン
2020/10/2 2:01
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Qによる「バッコスの信女―ホルスタインの雌」(兵庫県豊岡市の城崎国際アートセンター)
(C)igaki photo studio

Qによる「バッコスの信女―ホルスタインの雌」(兵庫県豊岡市の城崎国際アートセンター)
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平田オリザがフェスティバルディレクターを務める第1回豊岡演劇祭が9月9~22日、兵庫県豊岡市で開かれた。コロナ禍の影響で「国際演劇祭」から国内劇団のみのプログラムに切り替えるなど規模を縮小し観客動員は約2700人(公募作品を除く)とコロナ前の想定の半分にとどまったが大部分の公演チケットが売り切れ。様々な制約下ながら、質の高い作品が並ぶ充実した演劇祭だった。

公式プログラム11作品の中で屈指の注目を集めたのが演劇ユニット、Qによる「バッコスの信女―ホルスタインの雌」。昨年、あいちトリエンナーレでの初演が大きな反響を呼び、岸田国士戯曲賞も受賞。その先鋭性は「この演劇祭が目指す幅広さを体現する一つの極」(平田)となった。

■重層的なメッセージ

登場するのは性やジェンダーへの思いを赤裸々に独白する主婦、人工授精によって生まれた人間とウシのハーフ、雌ウシの霊魂を歌で表現するコロス(コーラス隊)など。

過激な表現やセリフを交えながら、生殖や愛、快楽といったセックスが持つ機能、男女の役割、人間と動物の違いなど様々な境界を揺さぶる重層的なメッセージが次々と提示される。刺激的な題材を扱いながらもギリシャ悲劇の構造や額田大志による音楽を使った演出が観客を置き去りにすることなく巻き込んでいった。

同作は作・演出の市原佐都子が昨年、今回の上演会場となった滞在型創作施設「城崎国際アートセンター(KIAC)」で制作した作品。その際、地元城崎の人たちとワークショップも開いた。「文脈を共有していない観客とコミュニケートするには歌・音楽の力が大事だと教えてもらった」と市原は振り返る。

KIACは2014年のオープン以来、15を超える国と地域からアーティストを受け入れており、平田が豊岡で目指す「国際演劇祭」としての展開もそのアーティストネットワークが基盤となる。KIAC発で海外演劇祭へも招請された話題作の「凱旋公演」は演劇祭にとっても大きな意味があったのではないか。

他にも、平田が気鋭の音楽家、中堀海都と組んだ現代音楽による室内オペラ「零(ゼロ)」、世界的ダンサーの木田真理子らが参加したダンスプログラム「変わりゆく線」など、バラエティー豊かな演目が演劇祭を彩った。

■交流不足が課題

平田がディレクターを務める演劇祭だけに、中心的な存在となるのはやはり会話劇。平田主宰の青年団、五反田団、マームとジプシーなど評価も人気も高く平田との関係が深い劇団が並んだ。

作品選定に偏りがあるとの見方もあったが、コロナの影響で演目や演出の変更も余儀なくされる異例の状況で行われた今回の演劇祭。それでも再演作にも今の視点が盛り込まれ、高いレベルの演目をそろえて開催にこぎ着けたのは、青年団や大学で多くの人材を育ててきた平田の実績があってこそ。平田が送り出した演劇人が現在の日本演劇界を支えていることを改めて実感させられた。

ただ今回、物足りなさを感じたのはアーティストと観客、地元の人たちの交流があまり生まれなかったこと。Qの市原佐都子は演劇祭の魅力を「国内外のアーティストとの出会いが次の創作につながっていくところ」と話す。

交流は作品を巡る批評や次なる創作へのきっかけを生み、演劇文化の深化・定着を促す。コロナによってその重要な機能が封じられてしまった。来年以降、観客が用意された公演を渡り歩くだけの「ショーケース」にとどまらない魅力ある演劇祭に成長していくはずだ。(佐藤洋輔)

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