サウジから「脱炭素」燃料 アラムコや三菱商事など実証実験

サウジアラビア国営石油会社サウジアラムコと日本エネルギー経済研究所、三菱商事などは二酸化炭素(CO2)を出さない「脱炭素」燃料をサウジで生産し、日本に運ぶ実証事業に着手した。天然ガスからアンモニアをつくり、発電設備の燃料として使う。温暖化ガスを出さずに石油や石炭などの化石燃料を活用する突破口になる可能性がある。
実証事業はアラムコとエネ研が窓口となり、三菱商事や日揮ホールディングス、三菱重工業、宇部興産などが参加する。
サウジ東岸のジュベイルにある、アラムコ傘下の石油化学工場で生産した40トンのアンモニアを今月、輸送船で日本に運んだ。これを天然ガス発電用のタービンや、石炭火力用のボイラーで燃焼させる試験を実施する。
アンモニアの製造段階で生じた50トンのCO2は回収して一部は化学製品のメタノールの原料として再利用する。残りは石油化学工場から約300キロメートル離れた油田に運び、原油生産を増やすために地中に圧入する。
電源10%分規模
水素と窒素の化合物であるアンモニアを燃やしてもCO2は生じない。石炭火力発電所にアンモニアを20%混ぜて燃焼させると、CO2発生量は20%減る。
エネ研の試算では、石炭火力にアンモニアを混ぜて燃やした場合の発電原価は1キロワット時あたり9.4円。石炭だけに比べて1.8円上昇するが、太陽光(15.6円、15年時点)や陸上風力(13.8円、同)よりも安く、再生エネに対し競争力があるとみている。

サウジ国内の製油所から出る、付加価値の低い石油残さを原料にすれば、年間3000万トンの脱炭素燃料を生産できる。日本の電源の10%をまかなえる規模だ。
サウジと日本は実証で得たデータをもとに、アンモニア燃料の大規模生産や日本やアジアに運ぶサプライチェーン整備を検討、30年代の本格利用につなげる。
温暖化対策の道筋を定めた「パリ協定」が発効し、石油や石炭など化石燃料に対する逆風が増している。日本政府は50年に温暖化ガスの8割削減を表明しているが、そのためにはすべての発電所から出るCO2を実質ゼロにする必要がある。
再生エネの導入拡大を急ぐが、国土やコストの制約からすべて代替するには限界がある。原油や天然ガス、石炭からCO2を取り除くなどし、その中に含まれる水素を発電や燃料電池自動車の燃料にすれば、化石燃料を使い続けることが可能になる。
三菱商事や三菱重工、日揮などは、石油・天然ガス関連事業で実績がある。アラムコと連携して脱炭素燃料の普及にいち早く動き、次世代燃料ビジネスの足場を築く。
資源を有効活用
石油需要は遠からず減少に転じる可能性がある。世界最大の原油輸出国であるサウジは歳入の大半を石油輸出に頼る。脱炭素燃料は、地下に持っていても価値を生まない「座礁資産」になりかねない石油資源の有効活用に道を開く。
サウジは今年のG20(20カ国・地域)の議長国。11月の首脳会議では低炭素化を進めながら化石燃料を有効利用する概念「炭素循環型経済」を打ち出す見込みだ。日本とのアンモニア燃料の実証事業はその中核となる取り組みとして紹介する。
水素は次世代燃料として急速に重要度を高めている。今回、アンモニアを使うのは、水素単体では輸送などに課題が残るが、水素をアンモニアに変換し、水素を運ぶ媒体として使えば既存の輸送や貯蔵インフラが活用できるためだ。
日本政府は水素社会の実現にむけて、30年までの行動計画を定めた「水素基本戦略」を策定している。欧州連合(EU)が50年までに4700億ユーロ(57兆6000億円)を投じる水素戦略を発表するなど、水素をめぐる競争が本格化しつつある。
(編集委員 松尾博文)