75歳まで働けますか? 年金、コロナ…変わる「老後」
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2020/9/29 2:00
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懐かしのバブル期。企業戦士の合言葉といえば「24時間働けますか?」だった。あれから30有余年。今、合言葉は「75歳まで働けますか?」に変わった。

現在の60代後半~70代前半といえば「高齢者」のくくりの再定義が議論されるほど働く意欲も能力もある。加えて喫緊なのが全世代型という社会保障上の要請。猛スピードで進む少子高齢化の下、支える人と支えられる人の明確な線引きはもはや維持できない。1人の高齢者を支える現役世代の人数は1960年には11人強。それが今やおよそ2人で1人を「肩車」している状態だ。

ここへ来て新型コロナウイルスの世界的流行というワイルドカードも加わった。「年金の運用に必要な金融商品の期待利回りは下がり、一段と『長働き』が必要な時代になった」――。著書でいち早く「人生100年時代」を見通した英ロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットン教授は言う。

■年金はいつからもらうもの?

制度の整備は着々と進む。「年金っていつからもらうものか知っていますか?」。小泉進次郎環境相の街頭演説の持ちネタの一つだ。答えは「原則65歳」だが正確に言うと今は「60歳から70歳の間」で1カ月単位で自由に選べる。さらに1年半後の2022年4月からは「75歳まで」の先延ばしも可能になる。

コロナ渦中でなければ本来もっと注目を浴びたはずだが5月末に年金改革法が成立している。そのメッセージは明白、「長働き」だ。

まず(1)厚生年金に入れる短時間労働者の枠を広げ、(2)繰り下げ受給の年齢上限を70歳から75歳に引き上げた上で(3)私的年金であるiDeCo(イデコ)や企業型確定拠出年金(DC)も同様に加入上限と受給開始の年齢を引き上げる。さらに(4)年金をもらいながら働くと年金が減額され労働意欲がそがれる「在職老齢年金」の制度を改めて対象者を減らす。22年4月以降段階的に施行される。

■「お預け」の利得は84%アップ

より長く働き、年金を「お預け」状態にすることで得られる利得は大きい。年金の受給開始を65歳から1カ月遅らせるごとにもらえる年金の月額は0.7%増加し、増えた額が一生涯続く。1年遅らせると8.4%増。今どき年利8%の怪しくない金融商品なんてありえない。比べるものでもないがメガバンクの1年物定期預金は年利0.002%だ。「よし、今月はまだ年金なしでも大丈夫だ。もう1カ月延ばそう」。こんな感じで75歳まで受給開始を後にずらせればその時にもらえる年金額は84%増。厚生年金の平均的な受給額約14万6000円で考えれば26万9000円弱になる計算だ。

■さよなら「波平モデル」

年金周りでしばしば使われる言葉に「波平モデル」「波平指数」というのがある。ご存じ漫画「サザエさん」のお父さん、磯野波平さんにちなむ。茶の間で和服でくつろぐ姿がしっくりくる、タラちゃんのおじいちゃんだが年齢設定はなんと54歳。当時の基準では1年後に定年を迎え、平均寿命までせいぜい10年程度の「老後」が待つ初老の男性だ。

それからおよそ60年。平均寿命はおよそ20年延びた。一方で定年の延びは55歳から65歳へと10年にとどまる。今54歳の「波平さん」が定年後すぐ年金をもらい始めると20年以上の老後が残ってしまうのだ。84%増というニンジンを鼻先にぶら下げて老後をできるだけ短縮する戦略は資産寿命的には非常に有効だ。ところが……。

■カギを握る健康寿命とITサポート

誰もが健康で75歳まで働ければ苦労はない。意欲はあっても体が言うことを聞かなくなるのが高齢期。一生でかかる医療費の合計約2500万円の半分以上が70歳以降の時期に集中する現実(自己負担額は年齢や所得に応じてその1~3割)がある。自立した生活を送れる「健康寿命」は平均寿命よりも10年前後短い。そこに加わったのがコロナ禍だ。若者に比べて高い重症化リスクを抱えながらの長働きは厳しい。リモートワークに必須のIT(情報技術)基盤も自助努力を求めるだけでは整わない。75歳まで働くためには年金のニンジン以外にもきめ細かいサポートが必要だ。

山本由里(やまもと・ゆり)


1993年日本経済新聞社入社。証券部、テレビ東京、日経ヴェリタスなど「お金周り」の担当が長い。2020年1月からマネー編集センターのマネー・エディター。「1円単位の節約から1兆円単位のマーケットまで」をキャッチフレーズに幅広くカバーする。
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