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大谷が取り組むオフの課題 "平均"な速球からの脱却
スポーツライター 丹羽政善

2020/9/28 3:00
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試合前に室内での練習に向かうエンゼルス・大谷=共同

試合前に室内での練習に向かうエンゼルス・大谷=共同

9月上旬、テキサスは意外にも涼しく、秋の訪れが感じられた。レンジャーズの新球場の屋根は開閉式であるものの、その日は試合中に雷雨の予報もあり、閉じられたまま。空調管理された球場内は外よりも暖かかった。

試合開始およそ2時間前、その季節感のないフィールドに姿を見せた大谷翔平(エンゼルス)は、センターでノックを受け、打撃練習が始まると、そのままセンターで球拾いを始めた。打球を追う姿は、本職の外野手そのもの。真後ろに飛んだ打球も目を切って背走。軽々と追いつき、走りながらグラブに収めた。

9月4日の記者会見で、日本では外野を守ったこともあるのになぜ守らなくなったのか? と米記者に聞かれ、「なんでですかね? 下手だったんじゃないですか」と苦笑しながらいなした。が、あの練習を見れば、マイク・トラウトを休ませたいときに大谷を使えれば――。ジョー・マドン監督がそんな誘惑にかられてもおかしくない。

外野で守備練習する大谷。その動きは本職そのもの=共同

外野で守備練習する大谷。その動きは本職そのもの=共同

もっとも、それは実現するとしても先の話。このオフ、大谷は仕切り直しとなった二刀流復活に向けて再始動する。

ほしいときに空振りがとれない

宿題は少なくない。例えば、筋肉量をどうするのか。投手としては必要な筋肉量を獲得できたとしても、それは打者としては適量だったのか。その逆の場合はどうだったか。バランスの検証が必要になる。

打撃不振については、「偶然にそうなっているわけではない。技術面でそうなっている」。大谷がたびたび口にしたのは「構え」。今年は構えがしっくりせず、試行錯誤を繰り返した。「改善していくしかない」と話した大谷だが、課題解決のヒントは見つかっているのか。

もちろん、なにより取り組むべきは投手復帰への道筋。だが今オフは、その先の進化も求められる。

おそらくメカニックに関しては、マイナーチェンジはあるにしても、左足を地面に踏み出す直前、テイクバックで右手の位置を肘より下から上に変えた昨オフほど大きな修正はない見込み。

それよりは、痛めた右前腕のリハビリの後、フォームが安定した段階で取り組みたいのはそれぞれの球種にどう磨きをかけるか。特に4シームファストボール(4シーム)の球質に関しては課題が少なくない。

2018年、大谷がボール先行のカウントで4シームを投げたのは69.1%。同年、そのケースでの被打率.415はメジャーワースト6位(総投球数750球以上、4シーム投球数150球以上)。対左打者に限定すると被打率は.476に達し、こちらはメジャーワースト(総投球数750球以上、4シーム投球数100球以上)。あれだけ速くても、相手に狙いを絞られるとかくも脆(もろ)いのである。

大谷の速球は狙いを定められると、大リーガーには打ち返されてしまう=共同

大谷の速球は狙いを定められると、大リーガーには打ち返されてしまう=共同

4シームの空振り率も低い。18~20年の3年間を対象とし、大谷のほか、メジャーを代表する4投手の空振り率を調べてみた(9月24日現在)。

ジャスティン・バーランダー(アストロズ)29.8%

ゲリット・コール(アストロズ/ヤンキース)32.5%

ジェイコブ・デグロム(メッツ)30.7%,

マックス・シャーザー(ナショナルズ)29.2%

大谷翔平(エンゼルス)20.8%

「ボールが動かない」大谷の速球

そうそうたるメンバーとの比較とはいえ、この10%の差は小さくない。大谷の4シームは決して必要なときに空振りが取れる球質ではないのだ。

その一因は4シームの軌道に求めることができる。大谷と先ほどの4投手の18年の変化量を比べてみた。

変化量とは、投手が投げる球と同じリリースポイント、球速、球種ながら、ボールが無回転だった場合にホームベースに到達する場所を基準点(グラフのX軸、Y軸がともにゼロの地点)とする。投手が実際に投げるボールには回転がかかっているため、基準点に達することはない。基準点とどれだけ平均到達地点が異なるのか、が縦横の変化量ということになる。

各選手の平均値と大リーグ平均を比較すると、大谷の4シームの軌道はリーグ平均に極めて近い。つまり、打者が一番見慣れた軌道ということになる。

かつて大谷が「品がある」と評したバーランダーの4シームは横にも横にも変化量が大きく、右打者には自分に向かってボールが浮き上がってくると映るはず。縦の変化量はリーグ平均と同レベルだが、横の変化量が小さいデグロムの4シームは、カットボールと錯覚するのではないか。

打者は各投手の軌道をイメージして打席に入るが、脳には平均の軌道が刷り込まれているため、そこから外れれば外れるほど、厄介になる。バーランダーらが結果を残しているのは偶然ではない。対照的に大谷の4シームには特色がなく、そういう球質を大リーグの各打者は「ボールが動かない」と表現する。

フォームをかえるか、新球種を覚えるか

どう改善していくのか。今どきのアプローチであれば、まずは投げたい軌道をイメージし、それに近い球を投げる投手の縦横の変化量などを分析する。次に腕の角度、握り方、リリース時の手首の角度、回転軸などを変えながら投げてみる。それをエジャートロニックという1秒間に3000コマ以上の撮影が可能なハイスピードカメラで撮影しながら確認し、同時に1球ごとにデータを取って、投げたい軌道データと比較。イメージした球筋に近い最適な投げ方が見つかれば、あとはひたすら動きが自動化されるまで投げ、体に覚えさせる。

もし、大谷がバーランダーのような縦の変化量が大きい4シームを投げたいと考えるなら、リリース時の腕のアングルを変える必要があるかもしれない。今はスリークオーター気味なので、ボールを体に近い位置でリリースし、しかも高い位置から投げることで、回転軸を進行方向に対し90度に近い角度に変えることができる。

それがしっくりこなかったら、新しい球種の習得も視野に入ってくる。

レッズのバウアーは2シームを習得して進化、サイ・ヤング賞の候補に=USA TODAY

レッズのバウアーは2シームを習得して進化、サイ・ヤング賞の候補に=USA TODAY

今年のナ・リーグのサイ・ヤング賞候補に挙げられているトレバー・バウアー(レッズ)はかつて、きれいなバックスピンのかかった4シームを投げていた。しかし、そのために上半身をやや一塁側に倒して投げる必要があり、いつか腰を痛めてしまうと指摘され、体の軸を真っすぐに変えた。結果的に腕がさがり、4シームの軌道も変わった。それを戻そうと腕の角度を変えたりもしたが、思ったようにいかない。そこで2シームファストボール(2シーム)を試したところ、これまで投げられなかった左打者をのけ反らせるようなフロントドアの2シームが投げられるようになった。「スリークオーターで投げる2シームは、曲がりが大きくなる。ケガの功名だ」。本人はそう話した。

大谷はどんなプロセスを選択するのか。変化が求められていることは間違いない。

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