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デシャンボーのゴルフ革命 オーガスタも動かす?
編集委員 串田孝義

2020/10/1 3:00
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全米OP初日、1番で385ヤードを放ちバーディーを奪った後のデシャンボーの2番ティーショット。340ヤードを右ラフへ打ち込みパー=USA TODAY

全米OP初日、1番で385ヤードを放ちバーディーを奪った後のデシャンボーの2番ティーショット。340ヤードを右ラフへ打ち込みパー=USA TODAY

新型コロナウイルスの影響で今年の全米オープンゴルフは最終日が例年のように6月の「父の日」ではなかった。だが、ブライソン・デシャンボー(米国)の優勝記者会見はいつもの大会のように両親への感謝の言葉から始まった。

「昼食代もなくてハムをはさんだだけのサンドイッチを手に学校へ通ったこともある。(経済的に)とてもつらい時期もあったけれど、両親は僕にとってのベストのこと、つまりゴルフをさせてくれた。(全米OP制覇は)家族、コーチを含むチームにとって、血と汗と涙の結晶なんだ」

■父と関係断絶、周囲の嘲笑にもめげず

アイアンのクラブシャフトの長さをすべて一般的な6~7番アイアンの長さに統一。「すべてのクラブで同じように構えることができれば反復性が高まり、同じ感覚、タイミングで打つことができるのでは」というデシャンボーの「革命」的理論の追究は、プロ経験もある父の理解を超越していたため、父子の関係は断絶した時期もあったという。

それでも我が道を突き進んだ。自らの分析、そこから導き出した結論が正しいことを自らの手で実証しようと半信半疑の周囲の嘲笑にもめげることはなかった。2015年に全米アマとNCAA全米学生の両タイトルを獲得、翌16年にプロ転向すると着実に勝利を重ね、プロ5年目の今年、全米OPでついにメジャー初制覇をなし遂げたのである。

今回が通算6度目の全米OPで、かつての開催では「ウイングドフットの大虐殺」と称された難関コースを史上初めて4日間オーバーパーなしで回った。6アンダーで優勝したデシャンボー以外、アンダーパーに生き残った選手はいない。スイングからコース攻略法の何から何までほかの出場選手の誰とも似ていない、独自性を貫いた点で歴史的勝利ということができそうだ。

アームロック式のパッティング姿勢も特徴的なデシャンボー=USA TODAY

アームロック式のパッティング姿勢も特徴的なデシャンボー=USA TODAY

アドレス時に腕とクラブをほぼ一直線に構えて、その直線を維持したまま上体を捻転させるシンプルなシングルプレーンスイング。これにはモデルとなった原型がある。アーノルド・パーマー(米国)と同じ年の生まれのカナダのモー・ノーマンという選手が自己流で編み出した「ハンマー打法」だ。機械のようなストレートな弾道は当時、「パイプライン」と称賛の意も込めて呼ばれたという。さまざまな事情で活躍の舞台がほぼカナダ国内にとどまったことで伝説の選手として位置付けられる。

デシャンボーの全米OP制覇はそうした伝説のスイングの復活再興であると同時に、彼自身による味付け、肉体増強というもう一つのゴルフ界の「革命」の成功を意味する。深いラフが待ち受け、「350ヤード飛ばしてラフに入れるくらいなら(刻んで)フェアウエーから打ちたい」(開幕前のロリー・マキロイ=英国=の話)というフェアウエーキープ最優先の常道を敢然と打ち破ってみせた。

ティーに立てば、同伴者とはちょっと異なり、グリーンに極力近づく方向をめざす。ホームランバッターよろしくぶるん、ぶるんと素振りをすると、豪快なショットを繰り出す。落下地点がラフだろうと構わない、OBでさえなければプレー続行は可能なのだから。

■圧倒的なボール初速、しかも真っすぐ

コロナ禍による約3カ月の中断が明けて、ムキムキの上半身になった変貌ぶりにみんなが驚き、飛距離アップばかりが注目されたが、デシャンボーの革命のすごみは圧倒的なボール初速で打ち出した球のスピン量をしっかりと制御し、真っすぐ打つことにある。

そしてもう一つ、深いラフなどものともせずに脱出するパワー。同一の長さにそろえたアイアンがラフに負けないショットにつながった、との見方も出てきている。デシャンボーが紡ぎ出すゴルフの科学は奥深く底がまだ見えず、多くの秘密が隠されている。

ただ、そうした常人の理解が追い付かないデシャンボーの流儀は現状、ツアーの中で決して王道たりえてはいない。昨季のツアー再開後のロケットモーゲージ・クラシックで優勝したあとの自身の次戦、メモリアル・トーナメントでは2日目にパー5の15番で2度OBを打ち「10」とし、予選落ちしている。

とんでもない場所に打ち込んでおきながら、悪びれることなくセーフの論陣を張って粘り競技委員を2人も呼ぶ、見方によればちょっとした厄介者。昨年まではスロープレーの悪名高き一人でもあった。自己主張ばかりで、周囲への忖度(そんたく)ゼロ、職場からちょっと浮いている社員といったところだろうか。

ニクラウス、ウッズに並ぶ全米3冠の全米OPトロフィーを誇らしげに掲げるデシャンボー=AP

ニクラウス、ウッズに並ぶ全米3冠の全米OPトロフィーを誇らしげに掲げるデシャンボー=AP

ただ、そんなデシャンボーが米ゴルフ界の巨星2人と肩を並べた。全米アマ、全米学生、全米OPの全米3冠を獲得したジャック・ニクラウス、タイガー・ウッズ(ともに米国)に次ぐ史上3人目のゴルファーとなった。「なんと言ってよいのか、一生分の喜びだ」。みんな、デシャンボーをもはや白眼視はできまい。

「人と違う自分のスイングがみんなにあることを知ってほしい。パーマーのいう『スイング・ユア・スイング』だ。優勝争いをしたマシュー・ウルフ(米国)だって、タイガーだってみんなそう」。我が道を行く生き方の正当性の主張にも重みが増したように聞こえてくる。

メジャーの次戦は16年大会でローアマを獲得しているマスターズ・トーナメント。基本的に長いラフのないオーガスタで、11月に延期開催となった今年の大会はパトロン不在の無観客で行われる。狙う方向は自由。左右にパトロンの人垣の壁ができる通常だとありえなかったショットを放つに違いない。

肉体改造は「もちろん」続けて、マスターズまでにあと5キロは増量するというデシャンボーは、ルールぎりぎりの48インチ(約122センチ)の長尺ドライバーを使う可能性を予告する。受けて立つ側のオーガスタ・ナショナルGCもすでに検討中とされる13番(パー5)ティーをより後方に下げる改造計画を急ぐことになるのだろうか。すべてはデシャンボーの打球の方向にかかっている。

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