阪神・スアレス、手術乗り越え不動のクローザーに

巨人の独走を許してしまった阪神だが、選手はくじけていない。中でも、今季限りでの引退を表明した藤川球児に代わる新クローザーのロベルト・スアレスは、セーブ王のタイトルを取る勢いで奮闘している。
今年1月29日に阪神球団事務所で新外国人3人の入団会見があった。取材陣最大の標的は米大リーグで通算92ホーマーを放っているジャスティン・ボーア。次いで韓国プロ野球の2019年打点王ジェリー・サンズだった。
同じく会見に臨んだスアレスは、まるで添え物。囲む記者も少なかった。「手術した右肘は完全に治った。速球は151キロまで回復した。スライダー、フォークボールと、どの変化球でも三振が取れる」という懸命のアピール。だが周囲は冷ややかな反応だった。
以前所属した、投手陣の層が厚いソフトバンクには見放された格好だった。16年の来日初年は58登板で2勝6敗1セーブ26ホールドだった。速球がすばらしく、フィールディングも器用にこなした。ところが、17年春のワールド・ベースボール・クラシックで肘を痛めた。4月に手術して同年は出場なし。18、19年には合わせて20登板しただけで、1勝5敗にとどまった。
だが、阪神入りしてからは日を追うごとに評価が上がった。矢野燿大監督は当初、クローザー藤川につなぐ、八回担当のセットアッパーの候補と考えていた。だが、オープン戦や練習試合でぐんぐんと調子を上げるスアレスをみて、救援陣の主力に加えると決めた。
開幕は6月にずれ込んだが、この間にもスアレスは驚くほど真面目に練習を積んだ。ケガで危機に立った経験をムダにしなかったのだ。開幕後は藤川の不調が続いた。7月12日の藤川2軍落ちを契機に、スアレスが後継ぎにされた。
7月に5セーブ、8月には7セーブを積み上げ、9月も走り続けて代役が主役へと変わった。クローザーがほとんどやらない「イニングまたぎ」にも挑み、何度も成功している。八回に長打力のある1打者と対戦、締めくくりの九回も続投する難しい救援だ。
入団会見で受けた冷ややかな反応を、ひとまずはね返した。アピールは外国人特有のオーバーな自己主張でなかった。マウンドでは厳しい投球を見せるが、普段は穏やか。「兄と投げ合えたらうれしい」とほほ笑む。
1歳年長の実兄アルバートはヤクルトの先発投手。19年に来日し、今季は2勝後に2軍落ちしたが復帰している。いずれ投げ合うだろう。
(スポーツライター 浜田昭八)