知らないと損する コロナ時代に役立つ経済の基本知識
『知らないと損する 経済とおかねの超基本1年生』

時代の変化が激しくなるにつれて、世の中の経済活動は複雑さを増してきた。コロナ禍で混乱が続く今の時期こそ、充実した生活を送るためには経済の知識が強い味方になる。今回紹介する『知らないと損する 経済とおかねの超基本1年生』は、人気の経済コラムニストによる新社会人や就活学生向けの教養書だ。人生で大きな損をせずに済ませるために、本書を通じて「経済から考える」という習慣を身に付けてほしい
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著者の大江英樹氏は経済コラムニストです。大手証券会社を定年退職した後、オフィス・リベルタス(東京・中央)を設立。行動経済学、資産運用、企業年金、シニア層向けライフプランなどのテーマを中心に執筆やセミナーを行っています。著書に『投資賢者の心理学』『定年前50歳から始める「定活」』『はじめての確定拠出年金投資』などがあります。
知識だけでなく「考え方」も
本書の目的は、ずばり「人生において大きな損をしないために経済を正しく知ろう!」というものです。経済の基礎をわかりやすく解説。その上で「知識だけではなく、知恵を身につけていただきたい」と著者は執筆の動機を記します。
経済を理解するために必要な知識は、時代とともに変わります。一方で知恵は、一度身に付けたら「一生モノ」の力になります。知恵とは、正しいものの考え方。経済に限りませんが、一番大事なことは「自分の頭で考える」ことなのです。
皆さんのビジネスは、新型コロナの感染拡大によって大きな影響を受けていることでしょう。毎日の生活でも不自由さが増しています。こんな社会環境だからこそ、経済の知恵はますます重要になります。本書は2015年に東洋経済新報社から単行本として刊行されたものを、加筆修正し文庫として出版しました。今の時期に出版する意味について著者は次のように書いています。
仕事の面でも生活の面でも、必要な情報を受け取ったら、あとは自分で考えて判断し、行動することが本当に大切だということをあらためて感じるきっかけを与えてくれたのが今回の新型コロナ禍だったのです。
さらに言えばコロナ後に来る社会において、起こりうる様々なリスクを考えると「経済とお金」に関して必要となる基本的な知恵を持つことはとても重要であり、それをさらにより多くの人に知っていただくことは必要なことだと思います。
(文庫化にあたって 4ページ)
住宅購入は消費か投資か
本書は経済学の対象となる5つの分野を取り上げ、それぞれをレッスン形式で解説していきます。(1)消費(2)投資(3)金融(4)貿易(5)財政がその5分野です。いずれも「基本のき」から始まり、身近な話題や面白いエピソード、例え話を使ってわかりやすく説明していきます。
一般に常識だと考えられていることが、必ずしも経済学的に正しくはない――。そんな事例もいくつか出てきます。「家は買う方が得か、借りる方が得か」という問題を考えてみましょう。日本には根強い「持ち家信仰」があります。一方で、バブル崩壊後の地価下落を受けて、賃貸にこだわる人もかなりいます。経済的に見ると、どちらが得なのでしょうか。著者は「マイホームの購入は消費か投資か」という視点で考えようと言います。
私はちょっと違うような気がします。
家を買うという行為は「買い物」ではなくて、実は「投資」なのです。買い物ということで言えば、むしろ"家を借りること"の方がより買い物に近いと言えるでしょう。一体どういうことか、少しくわしく考えてみましょう。
投資とは、お金を投じて何かを手に入れ、そこから何らかのリターンを得ることを言います。一番わかりやすい株式投資の例で考えてみます。株式投資の大きな目的の一つは値上がりを狙って儲(もう)けることですが、株式投資の目的はそれだけではありません。
配当をもらったり、株主優待をもらったりすることも株式を持つ目的です。
(LESSON1 消費 お金を使えば給料は増える 69~70ページ)
一方で、家を買うことは「思い切りレバレッジをかけた投資と同じ」と著者は見ます。それも10年、20年の長期投資です。一方の「家を借りる」という行為は、家に住むという「権利を買う」ことと同じです。
ここで、経済的にどちらが合理的かを考えてみます。問題となるのは、誰がリスクを背負うかです。持ち家なら老朽化、事故、災害などのリスクは本人が負います。仮に周囲の環境が悪化して、評価額が下がった時も同様です。賃貸なら、こうしたリスクはすべて家主が引き受けます。「したがって、純粋に経済合理性だけを考えれば、さまざまなリスクを抱えながら長期にわたって金利を払い続けるというギャンブル的な投資よりもできるだけ多くのキャッシュを手元に持ちながら借家に住む方が堅実だと言えるでしょう」。これが金融の専門家である大江氏のスタンスです。
ただし、マイホームは「夢」でもあります。合理性だけで判断できません。個人の人生観も大切です。高齢になったときに家を探しても、借りにくいのは事実です。そんな場合には「持ち家」の安心感に価値があることになります。要は、自分の場合にあわせて考えることが重要なのです。
お客様は神様じゃない
この本から人生に役立つ指針をたくさんくみ取ることができるはずです。EPILOGUE(エピローグ)には「あなたが人生で損をしないための重要ポイント」として5項目が示してあります。その一つは「お客様は神様じゃない」という定理です。「お金を出す買い手の方が、強い立場にある」というのは、いつも正しいわけではありません。売り手側は、できるだけ安く作って高く売り、利益を上げたいと考えます。買い手側はできるだけ安く買いたいと思っています。両者を比較すると、取引の動機という面ではあくまで対等です。
バーゲンセールも同様です。バーゲンというのは、業者が損をして客が得をすると思っている人がいるとしたら、それは大きな間違いです。そもそも商売というものは損をしてまですることは絶対ありません。プロ野球のチームが優勝すると関連する企業が優勝記念セールをやりますが、仮に最後まで競っていて優勝できなかった時でも、「ご声援感謝セール」とかなんとかの名目でバーゲンセールをやります。これは明らかにバーゲンが儲かるからなのです。
(EPILOGUE あなたが人生で損をしないためのポイント 232~233ページ)
このことから、何を連想しますか。私は、2年前にキャッシュレス決済の「PayPay(ペイペイ)」が展開した「100億円あげちゃうキャンペーン」を思い出しました。わずか10日で終わってしまうほどの大反響でした。企業側は100億円出しても、顧客の決済データが得られれば見合うと考えたようです。デジタル化時代にはデータがお金同様か、それ以上の価値を持ちます。こうした流れの中で、経済的なパワーを持ちすぎたIT企業のやり方に対しては批判が高まってきたのも事実です。たとえばアメリカ政府は、独占禁止や消費者保護の観点からGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)への規制を強めています。
経済の動きは社会や技術の変化で刻々変わります。本書の解説している基本を理解し、自分の頭で考える習慣を身に付ければ、より柔軟に変化に対応できることでしょう。
◆編集者からひとこと 日本経済新聞出版・野崎剛
冒頭でも紹介されているように、著者の大江さんは老後資金や年金といったシニア層向けのマネープランの話を得意とされている方ですが、本書はタイトル通り若い人向けに経済とお金の基礎的な知識を解説するものです。
本書の特徴は、その徹底した「わかりやすさ」。延べ40万人を超える受講者を対象にマネーに関するセミナーを行ってきた著者ならではの平易な語り口で、多くの人が「よくわからないけどほったらかしにしていた」「何となくわかった気になっていた」経済とお金に関する常識を、すっきりと整理して教えてくれます。
「知らないと損する」は、裏を返せば「知っていると得をする」。本書を読んでお金の常識をきちんと身につければ、それは一生役立つ知識、知恵となることでしょう。