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生きる祈り、底辺から(演劇評)

劇団太陽族「囚われし女たち」

刑務所での人間ドラマを描いた=藤岡優介撮影

世界中の人々がコロナに苦しむ渦中、演劇はどんな新作を生むべきか。劇作家達は葛藤するところだろう。数々の社会派の名作を発表してきた劇団太陽族の岩崎正裕の新作「囚(とら)われし女たち」は、意外にも声高なメッセージはなく、民話的な味わいのある温かな物語だった(9月12日、兵庫県伊丹市のアイホールで所見、岩崎正裕作・演出)。

作家の山代巴の自伝的小説に想を得た、戦時下の広島県の三次女囚刑務所を舞台にした作品。思想犯として投獄された光子(佐々木淳子)は、様々な境遇の女囚達と出会う。貧困から無銭飲食を繰り返す者、肉体関係を強要する舅(しゅうと)に斧(おの)を振るった者など。光子は転向に応じず、信念を貫き、隣の房のイッチョメ(岸部孝子)から激励される。彼女は「千里眼」の不思議な力を持つ。

当地に伝わるもののけ伝説を編み込み、端正な物語に仕上げた。冒頭では、現代の女子大生の会話を展開。「Go To トラベル」で、友達の帰省に同伴。だが感染の不安から家に入れてもらえず、不満を語る姿をユーモラスに描写。山に登り、触ってはならないと伝わる「たたり岩」に触ったことから、戦時中の刑務所に迷い込む幻想的な構造。山の場面では、通常は暗幕で隠れている、舞台頭上の作業用通路も使用。高さのある空間造形で、刑務所という閉鎖的設定に解放感を与えた。

底辺に生きる女性達が友情を育む、人情味溢(あふ)れるドラマ。最後は戦況悪化に伴い刑務所が閉鎖され、和歌山に女囚が移送される。不安を抱えつつ出発する彼女達。イッチョメが、災厄を振り払う伝説の木槌(きづち)で鐘を打つ。「きっと夜は明ける」「届け、世界の果てまでも」と。直裁な励ましと、生きる祈りの演劇だった。

(大阪芸大短期大学部教授 九鬼 葉子)

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