ミサイル防衛、地上イージス代替は洋上案 敵基地攻撃も年内結論
「抑止力と費用」議論急務
菅義偉政権で他国からのミサイル防衛を巡る議論が動き出した。防衛省は24日、地上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の代替案を与党に説明した。発射前に相手拠点を攻撃する敵基地攻撃能力の保有の是非とあわせ、年内に結論を示す。
中国はインド太平洋地域で軍事的に台頭し脅威となる。北朝鮮はミサイル技術を向上させる。両国への抑止力とコストのバランスを踏まえた現実的な議論が急務だ。

岸信夫防衛相は自民党国防部会などの合同会議で、レーダーや発射装置を洋上で運用する案を検討中だと説明した。具体的には(1)イージス艦など護衛艦の導入(2)タンカーのような大型専用船舶の導入(3)石油掘削施設のような移動型の洋上リグの建設――の3案ある。
護衛艦や専用船舶の建造は多額の費用がかかる。洋上リグ建設はコストを抑えられる一方、攻撃の標的になりやすいとみて自民党内に抑止効果を疑う意見がある。防衛省は米国とも協議して年内に1案に絞り込む。
政府はミサイル防衛の見直しを地上イージス代替策と、敵基地攻撃能力保有を含む抑止力強化策の2段階で検討する。

敵基地攻撃能力の保有論が浮上したのは中国や北朝鮮を念頭に置くミサイル迎撃による対処が、技術の進展に伴い難しくなってきたからだ。両国は経路を変えながら飛ぶ新型ミサイルの開発を進める。
日本が敵基地攻撃能力を持てば日米同盟の抑止力は高まる。一方で日本が単独で能力を保有する場合、他国の攻撃着手の情報把握や敵基地を爆撃する能力が必要だ。既存の迎撃システムよりもコストがかかるとの試算がある。
米国と協力すれば負担は軽減できる。独自の早期警戒衛星を持たずに米軍の情報を基に敵基地情報を把握したり日米共同で多数の小型衛星を整備したりする方法がある。
ミサイル発射の手法が多様化し敵基地攻撃能力保有がコストに見合わないとの分析もある。移動式発射台や潜水艦から撃たれると発射地点を捕捉するのが難しい。
日本は敵基地攻撃能力について国際法上も憲法上も保有できるものの政策判断で保有しないとの立場を取ってきた。海外から見ると奇異に映る。安全保障環境の現実や、技術の進展、コストを見据える総合的な議論が欠かせない。
◆識者に聞く
小原凡司・笹川平和財団上席研究員
飛んでくるミサイルを100%撃ち落とすのは不可能だ。一方で北朝鮮が核を保有する以上、日本に1発でもミサイルが落ちれば致命的なダメージになる。1発の「撃ち漏らし」も許されない。発射直前や直後の段階でミサイルおよび関連施設を攻撃することも考える必要がある。
コストを考えると、日本がすべての能力を持つのは現実的ではない。日米同盟のなかで日本が果たす役割を議論すべきだ。日本がミサイル発射の情報を探知できるようになることが大事だ。情報があれば米国も協力する。それ自体が抑止力にもなる。
こうした能力を全く持たないことは、日米同盟の「ただ乗り」との批判を免れないだろう。
戸崎洋史・日本国際問題研究所主任研究員
日米同盟の下で今までは米国が矛、日本が盾の役割を担ってきたため、日本は敵基地攻撃能力を持つ必要がなかった。中国の台頭や北朝鮮の核やミサイルが脅威になる時代では、それに対応する能力を持たなければならない。
敵基地攻撃能力は保有すべきだが、移動式のミサイルを攻撃するのは現状では難しい。相手に届くまでに別の場所に移動してしまう。基地自体など固定目標への対応が現実的だろう。
能力を保有するかは0か1の問題ではない。日本が被るかもしれない核を含めた甚大な被害をどう低減させていくべきかという問題だ。コストと利益を計算しなければいけない。