米国が制裁強化、ファーウェイがすがる「八路軍」 - 日本経済新聞
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米国が制裁強化、ファーウェイがすがる「八路軍」

米政府が、米国の技術を使う半導体を中国・華為技術(ファーウェイ)に輸出することを全面的に禁じた。同社スマホに組み込まれている半導体チップの製造は困難になり、製品供給にも影響が出そうだ。ファーウェイは窮地を脱すべく、第2次世界大戦中の中国共産党の故事にちなんだ「作戦」を開始した。

「南泥湾計画」。ファーウェイは8月、こう名付けたプロジェクトを密かに開始した。

南泥湾とは陝西省延安市南部の地名。第2次世界大戦中に日本軍の攻撃と国民党の封鎖を受けた中国共産党の八路軍第120師団第359旅団が「刻苦奮闘、自力更生」の精神で、荒れ地を開墾するなどして窮地を脱したという故事で知られる。南泥湾計画は、自力更生の精神で米国技術を使わずに製品を製造できる体制を構築することを目指す。

9月15日(米国時間)をもって、米政府は米国の技術を用いて製造した半導体をファーウェイに供給することを禁止した。台湾積体電路製造(TSMC)、台湾の聯発科技(メディアテック)、米クアルコム、韓国のサムスン電子、韓国のSKハイニックスなど、各国の企業は軒並み米規制に従った。

ファーウェイの消費者向け端末事業トップ、余承東(リチャード・ユー)氏は「ファーウェイは半導体の設計に専念し、製造は自ら手掛けなかった。そのため9月15日以降はフラッグシップ向けチップを調達できなくなってしまった。我々にとって甚大な損失だ」と述べている。同社子会社の海思半導体(ハイシリコン)が設計する最先端のスマートフォン向け半導体「麒麟」の製造は継続できない状態だ。

ファーウェイ製品の価格上昇

ファーウェイは台湾にチャーター機を飛ばすなどして、TSMCやメディアテックなどからの半導体の輸入を増やした。だが、業界内では「来年の夏頃にはため込んだ在庫も逼迫し、スマホ供給に支障を来すようになるだろう」との見方が大勢を占める。手に入れられる期間はあとわずかとみた中国の消費者の間でファーウェイ端末の人気が高まり、市場価格が上昇している。

ファーウェイに残された道は中国国内での調達しかない。だが、中国の半導体製造でトップを走る中芯国際集成電路製造(SMIC)でも、TSMCに追いつくには10年かかるといわれるほど差が開いている。さらに米トランプ政権はSMICも禁輸リストに追加することを検討しているとされる。

絶望的な状況だが、ファーウェイの郭平・輪番会長は「ハイシリコンに投資し続ける。数年後にはファーウェイは再び強いハイシリコンを所有することになるだろう」と話す。南泥湾計画を進めても半導体のサプライチェーンを国内で完結するのは相当厳しい道のりだが、正面突破する考えだ。

中国政府もこの動きに同調する。9月16日、中国科学院の白春礼院長は「西側諸国に死命を制せられている技術的問題」として、露光装置や材料といった半導体の中核技術を挙げ、「精鋭部隊を集めて解決する」と宣言した。

11月3日の米大統領選挙を控え、トランプ政権も民主党候補のバイデン陣営も中国に対する強硬姿勢を強めている。日本企業もさらなる事態の急変に備える必要がある。

(日経BP上海支局長 広岡延隆)

[日経ビジネス電子版 2020年9月23日の記事を再構成]

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