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好調ダル・菅野 「ピッチバリュー」が示す変身
野球データアナリスト 岡田友輔

2020/9/25 3:00
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ホワイトソックス戦に先発し、7回無失点で8勝目を挙げたカブスのダルビッシュ(シカゴ)=共同

ホワイトソックス戦に先発し、7回無失点で8勝目を挙げたカブスのダルビッシュ(シカゴ)=共同

米大リーグ、カブスのダルビッシュ有が投手最高の栄誉であるサイ・ヤング賞候補に挙がる活躍を見せている。賞の行方はライバルを含めた残りの登板に懸かってくるが、受賞となれば日本人選手初の快挙だ。低迷していた近年と何が変わったのか。データからは明確な変化がみてとれる。(今季の記録は9月23日終了時点)

■ダル、変化球が増え直球の球速もアップ

顕著なのは球種別の投球割合である。データサイト「FANGRAPHS」の集計では、今季は直球とツーシームを合わせた「速球」の比率が24%しかない。2018年の54.6%、19年の34.9%から大きく減っている。一方、増えているのがカットボール、カーブ、チェンジアップ。それぞれの比率は39.8%、12.9%、4.0%で、昨季の34.7%、7.1%、0.7%と比べ、明らかに多い。

こうした数字をみると、ダルビッシュが「変化球投手」にシフトしている印象を受けるかもしれない。しかし、そうとばかりもいいきれない。比率の減った速球のスピードをみると、実はこれが上がっている。今季の平均球速は153キロ。昨季からは2キロ増し、大リーグ移籍1年目の12年に比べると4キロ以上も速くなっている。つまり、今季のダルビッシュは速球の威力が増したうえに、これまで以上に多彩な変化球を操っているのだ。相手打者が手を焼くのも無理はない。

球種ごとの効果を測るのに「ピッチバリュー」という指標がある。膨大な統計に基づく「得点期待値」はアウトカウントや走者状況、ボールカウントにより、刻々と変わる。あるボールを投げる前と後で生じた得点期待値の増減を合算したのがピッチバリューだ。投手側からみると凡打やストライクで得点期待値を減らすとピッチバリューはプラスに、ヒットやボール球で期待値を上げてしまうとマイナスになる。

■菅野は直球とスライダーが改善

気をつけてほしいのは、ピッチバリューはそれぞれの球の「絶対的な威力」を表しているのではないということ。ど真ん中の直球でも、3ボール0ストライクだったり相手が変化球を待っていればあっさり見逃されカウントを稼げる。2死満塁フルカウントから会心の決め球をコーナーに投げ込んでも、審判が「ボール」と判定すれば押し出しだ。ピッチバリューではマイナスとなる。持ち球が多ければ打者は絞りづらくなるし、同じ球種でもカウントによって効果は変わる。ピッチバリューとは打者との力関係や偶然なども含む様々な要素の総和であることを理解してほしい。

今季のダルビッシュの場合、ピッチバリューが突出して高いのはカットボールでプラス7.1。カットボールを投げることで相手の得点期待値を7.1点減らしているという意味だ。次がスライダーでプラス4.2、チェンジアップが同2.5と続く。6勝8敗、防御率3.98だった昨季との比較で最も違うのは「速球」で、マイナス13.7からプラス2.1と大きく改善している。昨季は得意のスライダーもマイナス1.4と振るわなかった。とりわけ前半戦は、軸になるこの2球種でストライクを取るのにも苦労していた。

日本球界でもみてみよう。11勝6敗、防御率3.89ともうひとつだった昨年から一転、今季は開幕11連勝と快進撃を続ける巨人の菅野智之も直球とスライダーが大きく改善している。直球のピッチバリューは昨季、22試合でプラス1.4にとどまったが、今季は14試合で同8.0。スライダーはマイナス5.7からプラス9.4と本来の威力を取り戻している。

他球団の主な先発投手の球種ごとのピッチバリューをみると、直球は大野雄大(中日)、スライダーとチェンジアップは西勇輝(阪神)、カーブは山本由伸(オリックス)が高い数値を記録している。

ダルビッシュのように、球速をアップさせながら、速球の比率が下がっているのは球界全体の傾向といえる。今季、大リーグの全投球に占める速球の比率は約50%で、平均球速は149キロに達している。02年には平均142キロしか出ていなかったが、64%を速球が占めていた。球速アップはトレーニングや投球理論の進化に負うところが大きい。加えて球種や配球も複雑になっているのだから、投手のレベルがいかに上がっているかがわかる。

開幕11連勝中の巨人・菅野。直球とスライダーの改善が好調の要因だ=共同

開幕11連勝中の巨人・菅野。直球とスライダーの改善が好調の要因だ=共同

同じ傾向は日本にも当てはまる。データ分析を手掛けるDELTAのまとめでは、15年の直球比率(ツーシームは除く)と平均球速はパ・リーグが48.5%で142キロ、セ・リーグが45.3%で141.7キロだった。それが今季はパが43%で144.3キロ、セが43.2%で145.5キロとなっている。いずれも球速は上がり、直球の比率は下がっている。

日米のデータからは投球の基本である直球の投球割合の見直しが進んでいることが分かる。狙われても打たれないぐらいの直球を持っていれば大きな武器になることは間違いないが、打者は多くの場合、直球にタイミングを合わせている。被打率が最も高いのも直球というのが現実だ。現代野球ではテクノロジーの進化やデータ分析により、それぞれの投手の持ち球についての理解が深まっている。それに合わせ、個々の投手の特性を生かす「組み立ての最適化」も急速に進んでいる。

岡田友輔(おかだ・ゆうすけ) 千葉県出身。大学卒業後、民放野球中継のデータスタッフやスポーツデータ配信会社勤務を経て2011年に独立。株式会社DELTAを立ち上げ、野球のデータ分析やプロ球団へのコンサルティングなどを手がける。オンラインで野球分析講座を開講中。

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