ゲノム解析、米中が競う 投資額6年で6倍

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コラム(テクノロジー)
2020/9/28 2:00
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この10年で世界のゲノム解析スタートアップへの投資は急増し、2019年の投資額は13年の6倍以上に増えた。投資家は今や地位を確立した後期段階のスタートアップに多額の費用を投じるようになっており、市場が成熟しつつある兆しが出ている。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

スタートアップ各社は遺伝子データの多様化を目指しており、ここ数年は米国以外のゲノム解析企業への投資が著しく増えている。新型コロナウイルスの遺伝子検査の需要で投資トレンドに拍車がかかり、20年の世界のゲノム解析企業への投資額は44億ドルに達すると見込まれている。

ここでは「ゲノム解析」を遺伝子データの取り込み、シークエンシング(ゲノム配列の読み取り)、分析を手掛ける企業と定義する。個人の遺伝的特徴を検査する米トゥエンティースリー・アンド・ミー(23andMe)や、遠隔での遺伝子治療を手掛ける米ジェノムメディカル(Genome Medical)などが主な例だ。

今回のリポートでは、この分野の世界の投資トレンドについて取り上げる。

■投資件数は減少するも、過去最高を記録したメガラウンドで投資額は堅調

13~17年にゲノム解析企業への年間投資額は6倍以上に増えた。その後の2年間は、投資件数は引き続き増えたが、投資額は年間40億ドル前後と横ばいで推移した。

20年の投資額は今のペースが続けば19年を上回るが、投資件数は減速しつつあり、16年の水準に落ち込む見通しだ。

ゲノム解析企業への投資額、引き続き堅調
(13年~20年8月10日の株式取得・引き受けを伴う投資額と投資件数)

ゲノム解析企業への投資額、引き続き堅調
(13年~20年8月10日の株式取得・引き受けを伴う投資額と投資件数)

今年の投資額が増える見通しとなっている主な理由は、1回の調達額が1億ドル以上の「メガラウンド」が7件と既に通年ベースでの過去最高に達しているからだ。

今年これまでのゲノム解析企業による資金調達ラウンドで調達額が最も多かったのは、シークエンシング機器、装置などの開発を手がける華大智造(MGI Tech)のシリーズB(調達額10億ドル)だった。ベンチャーキャピタル(VC)のIDGキャピタルや中国の中信産業基金(CPE)、中国の金石投資などが出資した。華大智造の企業価値は40億ドルとユニコーン(企業価値が10億ドル以上の未上場企業)の地位に達した。

さらに最近では、以下の企業がメガラウンドを果たした。

・米エンコーデッド・セラピューティクス(Encoded Therapeutics):人工知能(AI)を使って遺伝子治療のターゲットになるDNAをスクリーニング(選別)する。同社は現在、第1段階の臨床試験(治験)に取り組んでいる(シリーズD、調達額1億3500万ドル)。

・米セマフォー(Sema4):リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に対する健康)やがんのスクリーニングを手掛ける(シリーズC、調達額1億2100万ドル、企業価値11億ドル)。

・米DNAネクサス(DNAnexus):遺伝子データ解析プラットフォームを提供している(シリーズF、調達額1億ドル)。

そのほか、米キャリアス(Karius)、米キャリーオペ(Kallyope)、米テンプス(Tempus)もメガラウンドを果たした。

■創業期段階の資金調達の割合が低下し、中期段階が上昇

ゲノム解析分野には成熟の兆しが表れ始めている。創業期のシード/エンジェル段階の企業の調達件数が全体に占める割合はここ数年低下しており、16年の44%から19年にはわずか27%になった。

この傾向に加え、20年の調達件数は減る見通しなのにメガラウンド件数は増えていることを踏まえると、投資家は地位が確立された後期段階の企業の大型ラウンドに注目していることが分かる。

シード/エンジェル段階の調達割合の低下は市場成熟のサイン
(15~19年のゲノム解析企業によるステージ別の調達件数の割合)

シード/エンジェル段階の調達割合の低下は市場成熟のサイン
(15~19年のゲノム解析企業によるステージ別の調達件数の割合)

19年のゲノム解析企業によるシリーズDの調達ラウンドは6件だった。例えば、血液検査でがんを発見する米グレイル(GRAIL)はCBインサイツが選んだヘルスケア分野の有力VC「ヘルスケア・スマートマネーVC」や米ARCHベンチャーパートナーズ、中国の啓明創投、シークエンス機器大手の米イルミナから3億9000万ドルを調達した。

今年に入り中期段階のスタートアップによる調達件数の割合が大幅に増えており、シリーズBとCで全体の半数近くを占めている。

■中国など米国以外の企業によるゲノム解析活動が盛んに

ゲノム解析技術は個々の遺伝子に応じた「精密医療」を実現する大きな可能性を秘めている。だが現時点では、期待に沿う結果を出せていない。一因はゲノム解析データセットに多様性が欠けていることにある。データは欧州系の人種に大きく偏っているため、データが少ない人種では正確な診断が下されない可能性がある。

もっと多様なゲノム解析データを収集し、解析することが精密医療を実現する次の重要なステップになるだろう。米国以外の国ではデータの多様性欠如を補おうとするゲノム解析スタートアップが台頭しており、こうした企業への投資も増えている。

米国以外のゲノム解析スタートアップによる調達額は急増しており、今年は24億ドルに達する見通しだ。15年以降で7.5倍近く増える計算になる。米国以外の企業による調達件数が全体に占める割合は17年には39%だったが、20年には60%に上っている。

米国以外のゲノム解析市場で最も成熟しているのは中国だ。過去5年間の大型ラウンド上位10件のうち9件を中国企業が占めた。

中国、米国以外のゲノム解析企業による資金調達で優位に立つ
(15年~20年8月10日の米国以外のゲノム解析スタートアップによる調達件数の割合、地域別)

中国、米国以外のゲノム解析企業による資金調達で優位に立つ
(15年~20年8月10日の米国以外のゲノム解析スタートアップによる調達件数の割合、地域別)

中国以外の第3の市場も勢いづきつつあるようだ。今年これまでの大型ラウンド上位10件のうち6件を米中以外の企業が占めている。

そのうちの主な2社は、米有力アクセラレーター「Yコンビネーター」出身で、アフリカ系の人向けのオンライン遺伝子プラットフォームを手掛けるナイジェリアの54ジーン(54gene)と、AIを使って創薬の効率を高めるカナダの精密医療企業ディープ・ジェノミクス(Deep Genomics)だ。54ジーンは20年4~6月期のシリーズAで1500万ドル、ディープ・ジェノミクスは20年1~3月期のシリーズBで3100万ドルをそれぞれ調達した。

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