カンヌに選ばれた深田晃司監督のドラマ劇場版
深田晃司監督が名古屋テレビで撮ったドラマの再編集版「本気のしるし〈劇場版〉」が10月9日劇場公開される。原作は星里もちるの漫画。4時間弱の長尺にもかかわらず、コロナ禍で開催を見送ったカンヌ国際映画祭が2020年のオフィシャルセレクションに選んだ作品だ。

辻一路(森崎ウィン)は踏切で立ち往生した葉山浮世(土村芳)を助けて以来、浮世に振り回される。不幸な身の上ではあるが、嘘つきで簡単に人を裏切る浮世。そんな浮世を放っておけない辻はどんどん転落していく……。闖入者(ちんにゅうしゃ)によって一見平穏だった秩序が乱され、虚妄があらわになるという深田作品によくある展開だ。
深田は20歳のころ原作を読み「浮世の異様な迫力」にひかれた。「男好きする言動の浮世はいかにも青年漫画向けのキャラクターだが、コメディー要素のないリアルな価値観の中に描かれると、悲しい存在として浮かび上がる。MeTooの時代の今こそフォーカスすべきだ」
「浮世の行動は男社会のエゴを明らかにしていく。浮世には隙があるからいけない、自業自得だ、と言う辻に対して浮世の女友達ははっきりノーという。原作は先見の明があり、ジェンダーに関する部分はさらに先に進めたかった」
一方の辻は八方美人で主体性のない男。そんな辻が、やはり主体性のない浮世と出会い、それぞれに主体性をもち始める。「主体性のない人間が主体性を獲得する物語でもある」と深田。
コロナ禍の中、映画文化への支援を積極的に訴えた。「コロナの前から問題は山積しており、それが顕在化したにすぎない。なぜミニシアターへの公的サポートがなかったのか。芸術家は生命維持に不可欠な存在だというドイツの文科相の言葉を、日本ではなぜ言わせられないのか。反省からスタートしなくてはいけない」
(古賀重樹)