金魚養殖300年・大和郡山、需要激減 コロナで試練 - 日本経済新聞
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金魚養殖300年・大和郡山、需要激減 コロナで試練

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16世紀初頭に中国から伝来したとされる金魚。日本人に長く愛されてきたが、近年は需要低迷に直面している。約300年の歴史を持つ日本最古の金魚産地、奈良県大和郡山市でも生産者は減少傾向にある。新型コロナウイルスの感染拡大も重なり、産地はいま、かつて経験したことのない困難に揺れている。

「文亀二年正月廿日(はつか)はじめて泉州左海の津にいたり」。江戸時代に金魚ブームを引き起こした日本初の金魚の飼育手引書「金魚養玩草(きんぎょそだてぐさ)」(1748年刊行)によると、最初の金魚は1502年1月20日、和泉国堺(現在の堺市)の港に渡来したという。ただ、元和年間(1615~24年)などの異説もある。

「金魚はおそらく、江戸時代以前に明国と通商のあった堺や長崎といった港町に『こがねうを』『きんぎよ』と呼ばれて少しずつ上陸したのだろう。豪商や大名の手から手に渡り、京や大坂、江戸に広がったのではないか」。「金魚と日本人」の著書がある、東海大学の鈴木克美名誉教授はこう推測する。

趣味から本業へ

大和郡山の金魚の歴史は1724年に始まった。郡山藩の藩主、柳沢吉里が国替えによって前任地から移ってきたとき、家臣が観賞用の金魚を持参したことがきっかけだ。藩士の趣味に近いものだった金魚養殖は、幕末になると副業となり、職を失った明治維新後は本格的な事業になった。

佐保川と富雄川に囲まれた大和郡山は水に恵まれ、農業用のため池も多く、養殖に適した条件がそろっていた。産地として発展したのは、旧藩主の柳沢家の功績が大きい。旧城内に養魚場をつくり、品種改良や飼育法の研究を通じて地場産業にする後押しをした。昭和初期には東京府(現東京都)の江戸川、愛知県の弥富と並ぶ金魚の三大産地と称されるようになった。

「1日だけで10万匹を出荷したこともある」と語るのは、金魚養殖・販売のやまと錦魚園の3代目、嶋田輝也社長。スマートな流線形の体を生かして俊敏に泳ぎ回る、金魚すくいでおなじみの「和金」を主力品種とする。本来なら夏場に出荷のピークを迎えるはずが「今年は昨年より9割も減った」と肩を落とす。

大和郡山の2019年の年間生産量は約5400万匹だった。弥富(約654万匹)を上回り、全国シェアの4割を占めるとされる。ただ、生産量の6割強が金魚すくい用の和金などで、観賞用の高級魚を中心に多くの品種を扱う弥富には年間取引額で及ばない。

金魚の需要は約30年前から減少し、大和郡山の生産量もピークの1993年の3分の1まで落ちこんだ。後継者不足もあり、生産者は現在36戸と最盛期の5分の1にとどまる。産地として曲がり角に立つなかでコロナ禍に見舞われた。

全国で夏祭りや花火大会の中止が相次ぎ、金魚すくい用の需要が激減した。大和郡山市で毎年8月に開かれる「全国金魚すくい選手権大会」も中止になった。経営環境の悪化で「廃業を考えていた事業者が決断を早めるかもしれない」。同市の担当者は危機感を募らせる。まさに産地の「危急存亡の秋(とき)」を迎えている。

観賞用は出荷増

一方、光明もある。やまと錦魚園は19年から、フェイスブックなどのSNS(交流サイト)で泳ぐ金魚の動画を発信している。外出自粛の期間中に見た愛好家らからの注文が増え、観賞用の出荷は前年比2割増えた。「らんちゅう」など高級魚なら1万~2万円と単価も高い。

「ピンチをチャンスに変えたい」。4代目の拓也さんは「琉(りゅう)金」などの高級魚の養殖に取り組んでいる。鈴木名誉教授は「江戸時代から日本人の暮らしの変転に寄り添いながら愛されてきた金魚は、日本の文化財として見直すべき価値がある」と指摘する。「おうち時間」の長いいまこそ、魅力を再発見する好機かもしれない。

(岡本憲明)

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