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ポストコロナの職住分離 廃れる地方、盛り上げる契機

2020/9/24 3:00
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実家近くの赤城山を走り魅力を再確認

実家近くの赤城山を走り魅力を再確認

カナダのバンクーバーは市街地を取り巻くように美しい森が広がり、仕事が終わると人々は手軽にアウトドアを楽しむ。都市型生活をしつつ日常的に本物の自然を堪能できるのだ。10年近く前に滞在した時にそんなライフスタイルをうらやましく感じた。

私がかつて勤めた群馬県は東京から100キロメートルほどの距離に位置する。その地理条件を利用し、1990年代以降、首都圏からの移住を推進してきた。現状、その政策は決してうまくいったとはいえない。これはどの地方でも似たような状況だろう。

首都圏への一極集中の是正は、当時から叫ばれていた。ただ、自然を求めて居を移せば、その代償として膨大な通勤時間がかかり、通勤できるのは新幹線などを利用できる限られた地域の人々だけだった。つまり完全には職と住とを切り離せない。それとともに2000年初頭から少子化も重なって過疎や市街地の空洞化が進む地方の衰退ぶりは急激に深刻化した。

世界の様相を一変させた今回のコロナ禍で、働き方は大きく変わりつつある。都会に日々身を置かなくても全ての人々ではないにしろリモートワークで多様な仕事ができることがわかってきた。おそらくこの傾向はコロナ後も続く。そのため週に数日程度の通勤であれば、住居の選択肢も一気に広がる。

これまでなら魅力的な地に住むと、その分、仕事の選択肢が狭まった。これも事情が違ってくる。さらに1カ所だけに住む必要もなくなってくるだろう。海がある街、温泉がある街と、思いに任せて柔軟に居を変えていくこともできそうだ。日本は小さな国土にもかかわらず自然景観は大胆に変わり、特色ある地域が存在する。せっかく地理的変化に富んだ国に生まれたのだから、いろんな場所に居を移す生き方も一考に値するといえそうだ。

実際に私もコロナ禍で仕事の大半がなくなり、実家の農業を手伝う日が増えた。赤城山麓に位置する実家は都心から100キロ強の距離ながら新幹線の駅や高速道路網からは離れており、観光要素はないけれどのんびりとした田園風景が魅力だ。農作業が終わる夕方、誰もいない森に駆けだせるぜいたくな土地であることに今まで気付かなかった。そしてゆったりとした時の流れのためか、都会では想起されないインスピレーションが次々と湧き上がってくる。

こうした移住の流れが本格的になってくると、人材面から地域活性化に一石を投じることになりそう。これまで地域振興では、地元の人材だけでなく新しい感性を持つ外部の人材がキーマンとなった土地が成功している例を目の当たりにしてきた。都会とのつながりを持つ人材が全国各地に散らばると、地元住民との融合による新しい何かを生み出す動きの端緒となるはずだ。

100年前の大正時代のスペイン風邪も世界中で社会に大混乱をもたらしたが、公衆衛生の考え方が広まり社会は大きく好転した。今回のコロナ禍は私たちの住居観を変えるパラダイムシフトとなるかもしれない。ひいては衰退必至が叫ばれた地方を盛り上げる契機になるのでは――赤城山を眺めながら思いをめぐらせている。

(プロトレイルランナー)

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