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五輪・パラも参考になるか 全米テニスのコロナ対策

全米オープンではソーシャルディスタンスを保つため、握手のかわりにラケットでハイタッチ(決勝後の大坂)=ロイター

大坂なおみ(日清食品)が優勝したテニスの全米オープンには、40を超える国・地域から350人以上の選手が出場した。コロナ禍のなかで行われた最初の本格的な国際スポーツ大会の一つで、その感染防止対策が注目された。厳しいルールにも選手から大きな反発はなく、防止策を聞いて出場を決めた車いすテニスの国枝慎吾(ユニクロ)のような選手もいる。大会は大きな問題もなく終わり、日本テニス協会は全米の対策を日本語訳して東京五輪・パラリンピック組織委員会に提出、国枝が自ら説明した。

防止策の肝は大会関係者を「ティア1~3」のカテゴリーに分け、選手や家族、コーチ、運営責任者ら「ティア1」の行動範囲を「バブル」と呼ばれるエリアに限定すること。それ以外で選手と接する可能性がある審判、ボールパーソン、医療関係者は「ティア2」、セキュリティー・配送・放送技術のスタッフら、選手と接しない人を「ティア3」とし、常に身につける大会IDに追跡を可能にする無線自動識別(RFID)タグもつけた。

バブルに入る際、ティア1はPCR検査が必須で、会場入りできるのは陰性結果が出てから。48時間以内に2回目の検査を受け、その後は4日に1度受け続ける。陽性反応が出たら選手は即座に棄権となる。大会を通じて6500件のPCR検査が行われ、陰性率は99.97%。内山靖崇(積水化学)は「バブルにいる限り、日本より安全かも、と思った」と話す。

東京五輪・パラリンピック組織委との意見交換にリモートで参加した国枝。右は組織委の遠藤利明会長代行、左は室伏広治氏(18日)=共同

マスク着用、手洗い、消毒の厳守はもちろん、米疾病対策センター(CDC)のガイドラインに沿った指示には、「使った鼻紙はゴミ箱に捨てること」といった細かいものまであった。

スポーツはルールを守ることが前提だからか、厳しい決まりにも「試合をするためには仕方がない」という反応が大半だった。試合で理不尽な判定に泣いたり、天候などで試合開始時間が何時間もずれたりすることは普通にある。選手たちはイレギュラーへの耐性が強い。

「誰も経験したことのない事態で、将来に前例として残すためにもこうしたことは必要」とセリーナ・ウィリアムズ(米国)。肺血栓を2度経験したセリーナや、車いす選手のように「厳しいくらいの方が安心する」という人も少なくない。

肺に持病を持つセリーナは感染症対策に敏感な選手の一人=USA TODAY

陰性率100%でなかったことからも分かるように、問題も少なからず起きた。全米と同じ会場で行われた前哨戦に出たブノワ・ペール(フランス)は全米の直前、陽性となった。バスの運転手、フードスタッフ、警備員、掃除をする人、ボールパーソン……。大会の運営を担う全員をバブル内のホテルに宿泊させ、検査を受けさせることは現実的でない。「2つある公式ホテルのうち、1つは貸し切りにできなかったらしく、結婚式をしていた」と内山は驚いていた。

ペールとの濃厚接触者の扱いは揺れた。大会前は「同室でない限り、必ずしも棄権の必要はない」だった。試合だけは許されていたのに、大会6日目になってホテルのあるナッソー郡保健当局から「濃厚接触者は自室にいること」と通告され、女子ダブルス第1シードのクリスティナ・ムラデノビッチ(フランス)は2回戦の棄権を余儀なくされた。

「悪夢だ。言いたいことはいろいろある」と、ムラデノビッチは不満を口にした。四大大会は1年に4つあるが、五輪は4年に1度しかない。濃厚接触者の扱いを明確に定めておいたほうがよさそうだ。

バブルには日常生活で必要なものは何でもそろっていた。ただ前哨戦から含めると、全米で決勝まで戦った大坂は3週間以上、会場と宿舎の往復しかできなかった。トップ選手は、大会事務局を通じて民家を借り、家族やチームスタッフを呼び寄せていたとはいえ、「気分転換で外を歩くこともできないのは、きつかった」と大坂はこぼした。ちなみに民家をバブルにすると、管理する警備員が配備され、民家の宿泊費だけでなく警備費もすべて選手負担となった。

全米オープンの会場のあちらこちらに安全対策を促すボードが置かれた=ロイター

全米オープンを主催する全米テニス協会(USTA)は3月のツアー中断直後から、大会開催に向けて対策を練り始めていた。「健康かつ安全にできるか。テニス界に寄与できるか。そして選手、USTAを含めて資金面で問題はないか。この3つを考慮して開催を決めた。海外のテニス協会、保健当局ら関係者との協力関係、密な連絡がカギだった」とUSTAのマイク・ドウス最高経営責任者(CEO)は話す。

開催に踏みきってもクラスター(感染者集団)が生じたら、スポーツを見る目が厳しくなるだけ。「ウイルスという見えない敵に集中し、医科学と医者の知見に従うこと。これが最優先」と、全米オープンのステイシー・アラスター・トーナメントディレクターはアドバイスする。厳しいルールの導入にあたり、前もってセリーナら選手たちに直接、何度も相談している。密を避けるため、会場の名前にもなっているテニスのレジェンド、ビリー・ジーン・キングさんをはじめとするVIPらにも、今回はIDを発行しなかった。

全米の何十倍もの選手が200を超す国・地域から参加し、運営に多くのボランティアも欠かせない五輪で、同じ対策をとれるとは思えない。ただ、「健康と安全が第一」「医科学の知見に従う」という視点、参加者にもある程度の負担と協力をしてもらうといった方向は、参考になるかもしれない。

(原真子)

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