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人材シェア普及させるには? テレワーク活用で弾み

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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

企業や組織の壁を越え、知見やスキルを共有する人材シェアリング。新型コロナウイルスを機に急速に普及するテレワークを活用すれば、物理的距離もほとんど制約にならない。有効活用するには何が求められるのか、日本総合研究所の星貴子副主任研究員に聞いた。

■都市部の人材を地方で活用

人材シェアリングは1人の労働者が持つ知識や技術を独立した複数の企業や組織、団体で雇用・非雇用にかかわらず各事業に応じて活用すること。兼業や副業、社外取締役などが該当する。高度な専門性を持っていたり、ある業界において長年の経験を持っていたりする場合が多い。都市部のシニア層を地方に派遣するセカンドキャリア形成支援に端を発した。近年は企業の帰属意識が薄く、時間にとらわれない働き方を志向する若年層にも広がってきている。

――人口減への対応や生産性の向上を目的に人材シェアが注目されています。コロナ禍はこうした傾向にどのような影響を与えるでしょうか。

「かつてのように会社がじっくり人材を育成する時間的、コスト的余裕がない。コロナ禍で、さらに状況が厳しくなっていることから、企業ニーズに応じて高度人材を活用する企業は増えるとみられる。例えばライオンは新規事業の人材として副業人材を公募した。即戦力としての高度人材を求め、需要は引き続き高い水準を維持するとみられる」

「コロナ禍による生活様式の変化で、企業にとって人材シェアを活用しやすい環境になってきている。特に大企業、都市部の企業においてはテレワークが普及し、そのまま定着する企業も出てきた。各種調査によれば、本業以外の時間を活用したいとする高度人材が増加している。これまでは、都市部から地方に人材を移住するかたちの人材シェアもあったが、テレワークが一般化すれば必ずしも地方に移住する必要はない。リモートを基本としつつ、月に1~2回赴けば目的を果たせる場合も多いだろう」

――ネットを通じて企業や個人から仕事を請け負うギグワーカーのような人たちも、人材シェアといえるのでしょうか。

「1人の労働力を複数の企業が活用するという意味では、シェアリングといえないこともない。特殊技能を有する大工など(個人事業主)が複数の建設現場で就労する、ある作物の育成に関するスキルを有する農家が他の農家や農業法人で作業するというケースが該当する。ただし、単純労働は機械に代替される部分が多くなると予測されることから、ワーカーといえども機械操作スキルや特殊技能など、労働者としての付加価値を身に付ける必要がある」

「こうした働き方は、本業の傍ら、空いた時間に自らの裁量で仕事ができる一方、仕事量や収入が不安定だ。信用力の低さから、融資を受けられなかったり、マンションを借りられなかったりするデメリットがある。失業保険や労災もない。隙間時間を使った小遣い稼ぎならいいが、ある程度の法的な保障がないと、本業とする場合、企業から見ると必要な時に必要なだけの使い捨てになってしまう。個人の派遣よりも立場が低い。米カリフォルニア州ではウーバーイーツのようなプラットフォームで働く人も、原則労働法上の労働者として扱うというギグワーカー保護法が成立した。プラットフォーム企業に対し最低賃金や社会保障、有給休暇を与えるよう求めている」

■覚書で企業秘密の漏洩防ぐ

――人手不足解消などの理由からメリットが注目されますが、情報漏洩などのリスクもあります。普及に際して、どのような法整備や企業規定の策定が必要ですか。

「現在は採用時に、企業と人材とで企業秘密に関する覚書を締結し、違反したら法的措置を取るという流れになっている。人材シェアに限らず情報漏洩が起きていることを勘案すれば、入退室制限やシステムへのアクセス制限など情報セキュリティーの強化が必要だ。内部関係者による情報漏洩をカバーする保険はすでに存在する。代表的なのが、日本商工会議所などの情報漏洩に関する損害保険制度だ」

「裁判になった場合は漏洩した情報が『企業秘密・営業秘密』に該当するかどうかが焦点となる。どのような事項がそれにあたるか明確にしておくことが重要だ。また、うっかりミスによる情報漏洩を防止するには、情報漏洩によって個人に課される責任の重大性(懲役刑、社会的な制裁)を幅広く周知し、学校教育や従業員教育を通じて理解させることも必要だ。社会全体で漏洩責任は重いという雰囲気を醸成する必要がある」

――人材シェアが今後ほとんど普及しなかった場合のシナリオでは、何が問題になるでしょうか。

「高度人材を獲得できる企業や地域と、それ以外との格差が拡大するだろう。だが、一部の企業や地域のみで、日本の経済をけん引することは困難だ。人材を囲い込める企業は、一部の大企業に限られる。大企業が高度人材を囲い込むことで、国際マーケットにおける日本の競争力を高める効果は期待できる。しかしその一方で、日本が生み出す付加価値の55%を創出し、雇用の70%を支える中小・小規模事業者が不利な立場に立たされることは看過できない。結果的に、中小・小規模事業者が淘汰されることで、わが国の産業構造に破綻が生じることも危惧される」

「そのうえ、人材を獲得できる大企業は、東京を中心とする大都市圏に多く所在しているため、大企業の人材の囲い込みに拍車がかかることにより、東京への一極集中が一層加速することが懸念される。対照的に人材を獲得できない地方圏で地元経済の衰退に歯止めがかからなくなるかもしれない。人材不足が常態化する状況下、高度人材を確保できる一部の企業や地域のみが生き残るという弱肉強食の環境では、地域間および企業間の格差がさらに拡大するリスクが高い」

「ただ、実際には多くの大企業で、人材を広く外部に求める動きが出ている。例えばオープンイノベーションだ。トヨタはオープンイノベーションを積極的に進め、自前主義ではなく、競合とも協力してもいいモノを作ろうという風土に変わっている」

(聞き手は企業報道部 吉田啓悟)

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