「田沢ルール」撤廃 ドラフト制度吟味の機会に

海外への人材流出を阻止するためにプロ野球界が設けていた「田沢ルール」の撤廃が決まった。これを受けて10月26日のドラフト会議では今年から日本の独立リーグでプレーしている田沢純一も指名対象となる。職業選択の自由を考えれば妥当な判断だが、日本のプロ野球を経ずに米国に挑戦したいアマチュア選手が今後も出てくることは十分に考えられる。この機会にしっかりルール整備をしておきたい。
新日本石油ENEOS(現ENEOS)で活躍していた田沢は2008年のドラフトで1位指名が確実視されていた。しかし彼はドラフト前に米大リーグに挑戦したい意向を表明し、国内球団に指名回避を求めた。田沢の意向は認められたが、さらにプロ側は田沢に続く有望選手の国外流出を危惧。国内球団を経ずに海外でプレーした選手が帰国した場合、ドラフト指名を2~3年凍結すると申し合わせた。制裁の色が濃いこの措置が「田沢ルール」だ。
■将来は日米の垣根撤廃を
今年のドラフトで田沢がどれだけの評価を得るか、34歳を指名する球団があるかは現時点で定かではないが、米大リーグでプレーした後、ドラフト指名を受けて日本デビューした選手には前例がある。僕のオリックス時代のチームメート、マック鈴木だ。高校を中退して米国に渡り、マリナーズなどでプレーした後、ドラフト2巡目で指名され、2003、04年とオリックスでプレーした。
マックはイメージ通りやんちゃそのものだった。10代から個人主義の米国育ちだ。先発してKOされれば「あとはもう知らん」という感じで、ベンチで応援もしない。当然、チーム内には反発も多かった。唯一、僕の言うことは聞いたので「日本ではそれじゃダメだぞ」と何度も諭し、少しずつなじんでいった記憶がある。
社会人野球出身の田沢がマックのように振る舞うことはないだろうが、大リーグでプレー機会がなくなったような選手が日本に戻ってきて厚遇されるようなことがあれば、日本一筋で頑張ってきた選手は面白くなかろう。大リーグ時代には桁違いの給料を稼いでいたベテランであっても、ドラフトを経て入団した以上、年俸はほかの新人と同じ扱いにするのが筋だ。

ドラフト会議の開催時期の違いなど現実には様々な障害があるだろうが、将来的には日米のドラフトの垣根が撤廃されてもいいと思う。プロになりたいと思う選手がよりレベルの高い場所でプレーしたいというのは当然の願望だ。日米双方の球団から指名を受けた場合、どちらを選ぶかは自由。その代わり、米国を選び、数年後に日本に戻るときには改めてドラフト指名を受け、新人として入団するというシンプルなルールでいいのではないか。
ドラフトに関して付け加えれば、成績下位球団から優先的に選手を指名していく「ウェーバー制」と、フリーエージェント(FA)権を得るまでの期間短縮も合わせて吟味してほしい。日本では逆指名や希望枠が撤廃された後も、希望球団以外は行かないという有望選手がおり、ときには希望球団以外が指名を見送るケースもあった。これは戦力の均衡というドラフトの目的にそぐわない。最初に入る球団は選べない代わりに、しっかり働けば若いうちに自分で選択する権利を得られる。それがあるべきドラフトとFAの関係だと思う。
(野球評論家)