「女性らしさ」より「自分らしさ」 メンズスーツが私の仕事着
街に溶け込むジェンダーフリー(IN FOCUS)
ナチュラルに、自分らしく――。若い世代を中心に性別の垣根を越えた自己表現が広がっている。ジェンダーフリーの洋服やメークが続々と登場し日常の風景に溶け込む。
「体のラインが出る女性用が好きじゃなかった」。コンサルタント会社に勤める吉本万梨奈さん(26)は8月、採寸のため、男性向けのオーダースーツを手掛けるFABRIC TOKYO(東京・渋谷)を訪れた。注文したのは自分好みにアレンジしたビジネス用のスーツだ。

同店では性別を問わずオーダーできるイベントを3週間開催した。今回が3回目だが来店予約は順調で100人ほどが購入した。「純粋にその人らしさを見いだし似合うものを勧める」(企画担当の杉山夏葵さん)
大手IT企業勤務の大須賀加那子さん(30)もメンズスーツが仕事の相棒だ。同店であつらえたジャケットとスラックスを愛用。「仕事であまり女性らしさを出す必要はない」と話す。

服飾史家の中野香織さんによると、現代の男性・女性"らしさ"につながる服装の色やデザインなどの要素は、19世紀の近代資本主義社会と共に生まれたのだという。いま人々は固定観念から解放されつつあるのだろうか。
東京都世田谷区では2019年4月から全区立中で性別を問わず制服が選べる。区立駒沢中学校では7人の女子生徒がスラックスをはく。運動が得意な2年生は「試着したら自分のスタイルに合っていた」と話す。理科系が好きな別の生徒も「男女の差別がなくてうれしい。みんなすんなり受け入れてくれた」。


学生服メーカーのトンボ(岡山市)は「ジェンダーレス制服」の販売を始めて5年。生徒が自由に選べるスカートやスラックス、ジャケットなどを開発してきた。同社によると約450校が男子用以外のスラックスを採用している。
中野さんは、Z世代の10~20代前半は「ジェンダーフリーネーティブ」と指摘する。すてきと感じたらメークやネイルも楽しむ。
「このアイブロウ描きやすいよ」。フリーカメラマンの渡辺健太郎さん(28)は自宅のリビングで妻・梓さん(30)に声をかけた。手にしたのは最近購入した「iLLO」の化粧品。「ニュートラルコスメ」をうたい、広告には男女ペアのモデルを起用する。
肌荒れで悩んでいた時に梓さんが塗ってくれたファンデーションに衝撃を覚え、毎日化粧をするように。「きれいな肌は自信につながった」(健太郎さん)

ジュエリーの購入にも変化が見られる。高島屋では、昨年のクリスマスごろから女性だけでなく男性も一緒に指輪やネックレスを買う20代のカップルが増えているという。購入者の2人に1人は男性というジュエリーブランドもある。こうした動きを受け、9月末からジェンダーレスのブライダルリングを展開する予定だ。
(写真・文 小谷裕美、森山有紗、井上容)