過去の安易な物語化に抵抗(展覧会評)
「ヤン・ヴォー ーォヴ・ンヤ」

関西タイムライン
2020/9/18 2:00
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ヤン・ヴォー「セントラル・ロトンダ/ウィンター・ガーデン」(2011年、公益財団法人石川文化振興財団蔵、「ヤン・ヴォー ーォヴ・ンヤ」展示風景、国立国際美術館、2020年)=福永一夫撮影

ヤン・ヴォー「セントラル・ロトンダ/ウィンター・ガーデン」(2011年、公益財団法人石川文化振興財団蔵、「ヤン・ヴォー ーォヴ・ンヤ」展示風景、国立国際美術館、2020年)=福永一夫撮影

ベトナム戦争後の混乱の中、父の手製のボートに乗ってベトナムを離れ難民としてデンマークに移住、その後ヨーロッパで美術を学んだヤン・ヴォー。日本の美術館における彼の初個展「ヤン・ヴォー ーォヴ・ンヤ」が大阪市北区の国立国際美術館で開催中である。会場には輸送用クレートに詰められたシャンデリア、解体された椅子、木製のオブジェ、ヴォーの幼年期のパスポート写真、彼の周辺の人たちの手による作品などが配置されている。

本展の見どころは個々の作品ではなく、それらを選択・配置するヴォーの巧みさにある。彼は作品同士の間に歴史的な参照関係を構築する。シャンデリアはベトナム戦争終結に際してパリ和平協定が交わされたホテルの一室に吊(つ)り下げられていたもの、解体された椅子はベトナム戦争時の米国防長官マクナマラが所蔵していたもの、オブジェの素材はマクナマラの息子の農場から切り出された木材であるというように。

作品同士の参照関係が痛みに満ちた個人的・社会的な歴史的時間を緩やかに示唆する一方で、それが具体的で明瞭な物語に帰結することはない。禁欲的なまでに作品に関する情報を切り詰めることによって、あるいは展示空間の仮設性・仮構性を強調することによって、意味作用を抑制し作品を事物のままに留まらせようとする。

本展は歴史的時間を詩的に喚起すると同時に、過去の安易な物語化に抗おうとする。ヴォーのインスタレーションの中を歩むこと。それは歴史が物語られる以前、流動的な過去の未決定状態へと分け入ることなのである。

(京都芸術大学准教授 林田 新)

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