オイルマネーあるうちに 技術立国の夢実現へ実利優先
塗り替わる中東勢力図(中)

2020/9/17 19:00
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国交正常化の直前の9月上旬、イスラエルの大手ハポアリム銀行の幹部がアラブ首長国連邦(UAE)に入った。国際送金で提携する準備だ。産油国UAEがイスラエルの先端技術に関心を示す協力合意が相次いでいる。中東の金融センターを自負するバーレーンもUAEに追随した。オイルマネーを流し込むお膳立てが大急ぎで進む。

石油の富をどう使うかが分かれ道に(UAEの首都アブダビの高層ビル群)=ロイター

「イスラエルは天然資源が乏しくハイテクに強い。技術革新には常に開発投資が必要で、UAEとの取り合わせは強力だ」。イスラエルの投資会社タミル・フィッシュマン・インベストメントのエルダド・タミル最高経営責任者(CEO)は期待を込める。

同国はIT(情報技術)や医療などの開発企業が勃興し「中東のシリコンバレー」とも呼ばれる。年7兆円もの石油輸出収入があり投資余力の大きいUAEは魅力的だ。「イスラエルの技術企業は米欧や中国から資金を得てきたが、UAEは流れを変える」とイスラエル・ベンチャー・キャピタルのグイ・ホルツマンCEOはみる。

既に新型コロナウイルスの検査キット開発などで両国企業の合意が相次ぎ、ITや軍事技術にも可能性は広がる。UAEの狙いは、技術の取り込みと産業の多角化だ。

再生可能エネルギーへの重点投資など、いち早く石油頼みから抜け出そうとしてきた。7月には中東初の火星探査機を三菱重工業のロケットで打ち上げた。「技術立国」の夢に、UAEの若者は胸を膨らませる。

脱・石油は時間との闘いだ。最大の原油輸出国サウジアラビアは、目指す国営石油会社サウジアラムコの海外上場がなかなか実現しない。

化石燃料への逆風は強まり、世界は再生可能エネルギーへの転換に大きくカジを切る。原油価格の低迷で財政赤字は膨らむ。いつまでも石油収入を分配するばかりの仕組みを維持できない。

脱・石油の取り組みで先行したUAEのドバイのモデルも万能ではない。大胆なインフラ投資とルール整備で中東のビジネスハブに成長したが、吸い寄せてきた物流や観光の需要は新型コロナで蒸発した。自らが高い付加価値を生む経済でなければ、危機にもろい。

試行錯誤を重ねてきたUAEが、経済改革の究極のお手本をイスラエルに見いだした可能性は高い。同国は天然資源は乏しいが、軍OBらの積極的な起業で、世界から資金を集める技術立国に変貌した。同じ中東の国々が学ぶことは多い。

UAEもバーレーンも、20世紀前半までペルシャ湾で採れる天然真珠が資金源だった。日本で発展した養殖技術によって真珠ビジネスは壊滅的な打撃を受けたが、石油が危機を救い、近代化を成し遂げた。そのオイルマネーがあるうちにイスラエルとのタッグで技術主導型の経済をめざす。

ポンペオ米国務長官は8月下旬にオマーンやスーダンを訪れており、国交正常化への追随を促したとみられている。経済構造の改革加速は、これらの国々や慎重姿勢を崩さないサウジをイスラエルに近づける力となる。

(カイロ=久門武史)

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