米、ゼロ金利頼み再び 「財政の崖」必至

2020/9/17 15:00 (2020/9/17 19:48更新)
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FRBのゼロ金利頼みが再び強まっている=共同

FRBのゼロ金利頼みが再び強まっている=共同

【ワシントン=河浪武史】米連邦準備理事会(FRB)は16日、ゼロ金利政策を少なくとも2023年末まで続ける方針を表明した。先行きは財政悪化で金利に上昇圧力がかかりやすく、長期緩和の宣言で市場の不安を和らげる。米経済は追加財政出動が宙に浮き、公的支援が切れる「財政の崖」に直面する。FRBのゼロ金利頼みが再び強まっている。

「きょう発表した強力なガイダンス(指針)は、景気を強く効果的に支えるのに役立つ」。パウエル議長は16日の記者会見でそう強調した。

同日の米連邦公開市場委員会(FOMC)ではゼロ金利と量的緩和の維持を決定し、長期のゼロ金利政策を確約する「フォワード・ガイダンス」も導入した。ゼロ金利を解除する条件として(1)完全雇用の達成(2)インフレ率2%の到達(3)同2%超への軌道の確保――の3つを明示。同時に23年末までゼロ金利を維持する政策見通しも公表した。

利下げ余地がないFRBにとって、フォワード・ガイダンスは緩和効果を高める一つの手法だ。低金利が長く続くと判断できれば、企業家や投資家は安心して資金調達できる。住宅ローンなどと連動する長期金利の押し下げ効果も期待できる。

2%の物価上昇率の達成は簡単ではない。直近では18年秋が最後で、ゼロ金利を前回解除した15年末時点では、わずか0.4%だった。FRBは物価の過熱を警戒して予防的な利上げに動きがちだったが「デフレ警戒」へと転換する。緩やかなインフレを促すことで投資や雇用に過熱感を持たせる狙いもあり、イエレン前議長も「高圧経済」と呼んで提唱していた。

もっとも同日の金融市場は、パウエル氏の記者会見中に前日比360ドル高まで上昇したダウ工業株30種平均が、最後は36ドル高へと上げ幅を縮めた。市場は24~25年までゼロ金利が続くと織り込んでおり、フォワード・ガイダンスはその追認にすぎない。

「財政は極めて重要だ。民間エコノミストも大規模な追加対策が必要だと主張している」。パウエル議長は金融政策の限界にも触れた。しかし、大統領選が迫る米国では与野党対立の激化で、新型コロナウイルス対策の追加財政出動のメドがたたず、米経済は「財政の崖」に直面する。

失業給付の積み増しは7月末に期限が切れ、8月にトランプ政権が大統領令で一部復活させた。その財源は災害基金の流用で9月中にも枯渇する懸念がある。航空会社の雇用維持策も9月末に失効し、大手各社は数万人単位の人員カットを計画する。米経済は7~9月期に反転上昇が期待できるが「財政の崖」が大きな足かせだ。

次回のFOMC会合は11月4~5日で大統領選(同3日)の直後だ。現職のトランプ氏が再選しても、民主党のバイデン前副大統領が勝利しても、ともに増減税などで両極端な政策を掲げるだけに、金融市場の混乱が懸念される。そのため、FRBは次回会合に向けて、量的緩和政策の拡充も検討する。パウエル議長は16日の記者会見で「資産購入は適切に計画を調整する用意がある」と明言した。

問題はその調整方法だ。FRBは既に米国債を月800億ドル、住宅ローン担保証券(MBS)を月400億ドル買い入れており、購入ペースは08~14年の前回の量的緩和時を超す。FRB内では購入量を増やすだけでなく、短期国債の購入比率を減らして長期債を増やす案が浮上。長期金利の押し下げに力点を置く。

米10年物国債利回りは0.6%台と異例の低さが続くが、市場では12月末にかけて1.0%まで上昇するとの観測が強い。米連邦政府は20会計年度(19年10月~20年9月)に3兆ドル超の財政赤字を計上する見込みで、戦後最大の国債大発行が続く。フォワード・ガイダンスと量的緩和は長期金利の上昇を抑える効果があるが、未曽有の財政悪化との綱引きだ。

FRBは中長期の金利に上限を設ける「イールドカーブ・コントロール(YCC)」や、日欧のようなマイナス金利政策をひとまず封印している。ただ、FRBが目指す完全雇用の実現は23年末以降になりそうで、長期戦に備えた追加策の腹案作りが求められる。

ゼロ金利政策が長引けば、金融緩和の副作用も強まる。各国の低金利政策を研究する米プリンストン大のマーカス・ブルネルマイヤー教授は「金利が下がりすぎれば民間銀行の収益力が下がって、貸出量の縮小などかえって金融引き締めにつながる」と警鐘を鳴らす。収益性の低い「ゾンビ企業」の延命で産業の新陳代謝が滞り、経済の潜在成長力を弱めるとも指摘する。

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