ウエルネス企業、コロナ禍で相次ぎデジタルシフト
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)が世界経済に打撃を及ぼしたため、2020年1~6月期のウエルネス業界への投資は前年同期比で減少した。20年1~6月期のウエルネス企業の資金調達件数は16%減の500件弱、調達額は24%減の46億ドルにとどまった。

もっとも、フィットネスに最新テクノロジーを取り入れた「フィットネステック」やメンタルヘルス対策を手掛ける企業は、この期間に大きな注目を集めた。フィットネステックでは中国のソーシャルフィットネスアプリ会社、キープ(Keep)と米定額制フィットネスサービス会社、クラスパス(ClassPass)の企業価値が10億ドルを超えた。新型コロナの感染拡大に伴うジムの営業休止を受け、投資家はジムの代替サービスに資金を投じた。
そしてメンタルヘルスはウエルネス業界で資金調達額と調達件数が最も多いカテゴリーだった。20年1~6月期の調達件数は106件、調達額は10億ドル以上に上った。
今回のリポートでは、20年1~6月期のウェルネス業界の4つの投資テーマを取り上げる。ウエルネステクノロジー企業は消費者の身体的、精神的、社会的な幸福度を高める製品・サービスを開発する企業だと定義する。
カテゴリーは美容・パーソナルケアからフィットネステックまで多岐にわたるが、ここでは旅行、外食、食品・飲料会社は除く。ただし、今回取り上げる他のカテゴリーに入る企業(例えばベビーフードの定額制サービス)や代替タンパク質を手掛ける企業は対象に含める。
1.在宅ツール:自宅にいながらできることが増加
デジタルプラットフォームやアプリだけがウィズコロナの「勝ち組」ではない。新型コロナの影響で実店舗や支店が営業休止になり、消費者が店を訪れることによる感染リスクを避けようとしたため、在宅ツールの勢いが増した。
20年4~6月期には睡眠の健康やウエルネスを手掛ける企業の資金調達件数が増えた。背景には医療用レベルのウエアラブル端末が開発されて自宅で睡眠障害の治療が受けられるようになり、普及が進んでいることがある。睡眠データを測定する米タッチ(Tatch)、米オネラ(Onera)、カナダのセレブラヘルス(Cerebra Health)はいずれも20年1~6月期に資金を調達した。

フィットネステックでは資金調達活動とM&A(合併・買収)活動の両方がみられた。自宅用ローイングマシンを手掛ける米ハイドロー(Hydrow)は6月、米エルガッタ(Ergatta)は7月にそれぞれ資金を調達した。一方、カナダのルルレモン(lululemon)は6月、自宅用フィットネス機器メーカーの米ミラー(Mirror)を5億ドルで買収した。
フィットネス用のウエアラブル端末も脚光を浴びた。フィンランドのフィットネス用リングメーカー、オーラ(Oura)は新型コロナの症状を検知する機能や米プロバスケットボールNBAとの提携が大きく報じられた。英ナーブ(Nurvv)やインド発のゴーキー(GOQii)などの新興ウエアラブル端末メーカーも、今年に入り資金を調達した。
セルフケアのカテゴリーではプライバシーが守られ、利便性も高いことから自宅で受けられる臨床検査の人気が一段と高まっている。米エリジウムヘルス(Elysium Health)は自宅で採取した唾液から身体の健康の指標となる生物学的年齢を判定できる検査キットを手掛ける。6月にシードラウンドで資金調達した米QRファータイル(QRfertile)は、自宅にいながら男性の生殖能力を検査できる。
2.コミュニティー:物理的距離を確保しつつデジタルで個人をつなぐ
消費者はオンラインでのつながりを求めている。このため、コミュニティーを強調したウエルネスサービスが台頭している。
中国のソーシャルフィットネスアプリ会社、キープは5月、シリーズEの資金調達ラウンドで有力ベンチャーキャピタル(VC)のGGVキャピタルや中国のネット大手、騰訊控股(テンセント)などから8000万ドルを調達し、ユニコーン(企業価値が10億ドルを超える未上場企業)の地位に達した。同社のアプリはコミュニティーを重視したフィットネスクラスを提供する。月間登録ユーザーは4000万人としている。
特に増えているのが女性向けのソーシャルコミュニティーだ。英ピーナット(Peanut)は妊娠中や子育て中などライフステージが似ている女性をつなぐモバイルアプリだ。米レベル(Revel)は定期的なイベントや少人数での会話を促すことで、50歳以上の女性を対象にオンラインでの交流から実際の付き合いに発展するコミュニティーを育む。

3.サステナビリティー:持続可能な原材料を取り込み、有害な物質を排除
スキンケアからベビーフードに至るウエルネスの各カテゴリーは、引き続きサステナビリティーを重視している。もっとも、新型コロナの感染拡大で景気の先行き不透明性が高まり、消費者が割安な商品やルーティンを求めるようになっているため、このトレンドは後退する可能性がある。
特に美容メーカー各社は商品を差別化しようとクリーンな原材料の使用に力を入れている。バイオテクノロジー企業の米ジェルター(Geltor)は持続可能な方法で生産し、研究室で培養したスキンケア用コラーゲン製品を手掛けている。

サステナビリティー(持続可能性)のトレンドは幼児の栄養にも広がっている。持続可能な原材料を使った乳児用粉ミルクを開発している米バイハート(ByHeart)は4月、シリーズAのラウンドを完了した。
4.インクルーシビティー:様々な属性の消費者に提供
ウエルネス業界のあらゆるカテゴリーの企業は、これまで見過ごされてきた特定の層を対象にすることでインクルーシビティー(包括性)を促進している。
フィットネステックでは、対象を絞ったフィットネスプログラムが増えている。米エブリーマザー(Every Mother)は母親を対象にしたエクササイズプログラムを提供する。
メンタルヘルスでは初期段階のスタートアップが提供するコンテンツで他社との違いを鮮明にしたり、具体的なメンタルヘルスの必要性に対処したりしている。米エネーブル・マイチャイルド(Enable My Child)は子ども向けにセラピーを提供し、米リアル(Real)は女性とノンバイナリー(男女のいずれにも属さない)の患者に特化したメンタルヘルスサービスを手掛ける。米ヘンリーヘルス(Henry Health)は有色人種のセルフケアを支援する。
