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ニコン、逆風デジカメの技術を3Dプリンターに転用

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞
ニコンは光学設計を応用して金属3Dプリンターの小型化に成功した

日本が世界シェア9割を握るデジタルカメラに強い逆風が吹いている。スマートフォンの普及で市場縮小が続くところに新型コロナウイルスが追い打ちをかけ、先行きは厳しい。100年近くカメラを作り続けてきた各社は蓄積した光学技術を様々な産業に転用し、活路を模索している。

世界出荷が4割減少へ

調査会社のテクノ・システム・リサーチは2020年のデジカメ世界出荷が約840万台と、19年より約4割減るとみている。ニコンは8月の決算説明会で「中国は足元が前年度並みに戻った」と説明した一方で、今後については厳しい見方を示さざるを得なかった。

6月には「PEN(ペン)」ブランドで多くの消費者に使われたオリンパスが事業売却を決めた。市場縮小の流れが変わらない現状では、今後も事業縮小や撤退の動きが続く可能性は高い。

それでも各社は技術を磨きながらフィルムカメラからデジカメ、ミラーレスカメラと需要の変化に対応してきた。これらの技術をカメラ以外の分野に転用することで「異彩」を放っている。

ニコンのレンズは「東京ドームの大きさに拡大した際に凹凸の誤差が髪の毛1本よりも細いレベル」(同社)だという。もともとは欧米企業が先行していたカメラ事業を日本勢が追い抜けた背景には、日本光学工業(現ニコン)の「ニッコールレンズ」の品質が朝鮮戦争で米国人カメラマンに評価された歴史があるともいわれている。

そして品質の土台にあるのが「光学設計」と呼ばれるノウハウだ。光をどう扱うかを考えて形状の異なる個々のレンズの構成や配置を検討し、素材や形状などを決める設計プロセスを指す。

ニコンは金属3Dプリンターの小型化に光学設計を生かしている。金属加工のレーザー出力に適したレンズ群を設計し、レーザー光線がレンズを効率よく透過するようにコーティングを施した。照射したレーザーの反射にも対処できている。

サイズは縦横1メートル以内に

心臓部のレーザー装置を小型化したことで本体サイズは縦横1メートル以内、高さは2メートル以内、重さも約300キログラムに収まった。金属3Dプリンターとしては小さくなったため、一般的な建物にも設置しやすいという。

狙った場所に金属粉を吹き付け、レーザーで溶かして固める「付加積層」と呼ぶ方式も採用した。「金属パイプの亀裂や金型の欠けを補修したり、なくなったネジの頭を復活させたりできる」(次世代プロジェクト本部第一開発部の石川元英第一開発課長)。計測技術や制御技術を組み合わせ、特色ある3Dプリンターの実用化につなげることができた。

交換レンズ関連でも転用できる技術がある。富士フイルムは19年に参入したプロジェクターで、投影面との距離が近い「超短焦点モデル」の異色製品を発表した。

鏡が1枚の一般的な方式ではなく、2枚の鏡を使った潜望鏡のような構造だ。これで本体を縦にも横にも置けるようになり、設置場所の制約が大きい遺跡やコンサート会場などで導入が進む。

プロジェクターの投影方向を自由に切り替えられる構造の背景にあるのはレンズ群の精密加工と組み立ての技術だ。鏡と組み合わせるレンズ群は20枚以上もあり、大きいものでは直径が87ミリメートルの非球面レンズもある。

富士フイルムのプロジェクターが使われたポルトガルでデジタルアート展

レンズの形状などに誤差が存在すると「掛け算で拡大してしまう」(光学・電子映像事業部の鵜殿真一郎統括マネージャー)ため、1枚の微細なずれも許されない。

熟練工が在籍する拠点でレンズ部分を組み立て、その後に実際の映像を見ながら微細な調整を重ねるという地道な作業を繰り返している。

現在では当たり前の自動露光やオートフォーカス、画像処理までを一手に担うのがCPU(中央演算処理装置)や信号回路などで構成する映像エンジンだ。いわばデジカメの「頭脳」で、キヤノンがIoTの領域に応用範囲を広げつつある。

工場のメーターやセンサーには目視できる目盛りやディスプレーが存在するが、それらの情報をデータとして読み出して自動で1カ所にまとめるIT(情報技術)システムの構築には多くの手間とコストがかかる。

目視をコンピューターに代替させるには焦点距離が決まった産業用カメラを調達して設置場所や機材を決め、システムを構成することが必要。工場の規模にもよるが、半年程度かかる場合も多いとされる。

カメラが上下左右に首を振り確認

この課題をキヤノンはカメラのズームや左右首振りの「パン」、上下首振りの「チルト」を組み合わせて解決する。これにより壁一面のメーターを1カ所からまとめてチェックできるという。

計器類にカメラを向けてズームし、ピントなどを合わせて画像を認識する。数字を正確に読み取るところまで機器が担うため「IoT担当者は作業手順を設計することに集中できる」(同社イメージソリューション事業本部でFA事業担当の荒井毅一部長)という。

各社の「カメラ技術」が収益に貢献する規模はまだ大きくない。ようやく生まれた「小さな光」を育てていくにはマーケティングなどの戦略も重要だ。新型コロナウイルスの影響で各社の業績は厳しいが、過去の伝統を未来につなぐ知恵と工夫が問われている。

(企業報道部 橋本剛志)

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