イスラエル、UAE・バーレーンと国交正常化合意に署名
トランプ氏が仲介、大統領選へ成果訴え 対イランで結束

【ワシントン=中村亮、カイロ=久門武史】イスラエルは15日、米ホワイトハウスでアラブ首長国連邦(UAE)やバーレーンと国交正常化の合意文書に署名した。共通の脅威とみなすイランに対する結束を強める狙いがあり、他のアラブ諸国も追随する可能性がある。トランプ米大統領は和平を仲介し、11月の大統領選に向けた成果を有権者にアピールした。
トランプ氏は15日、バーレーン外相を出迎えた際に記者団に対し「すばらしい日だ」と語った。署名式に先立って会談したUAE外相には「あなたの国は偉大だ」と称賛した。
それぞれ1979年と94年にイスラエルと国交を正常化したエジプトとヨルダンを含め、アラブ諸国でイスラエルと国交を持つのは4カ国になる。トランプ氏は「さらに多くの国が続くことをとても望んでいる」と語り、別のアラブ諸国もイスラエルとの国交正常化に続く可能性がある。
具体的にはオマーンやスーダンの名前が取り沙汰されている。両国ともポンペオ米国務長官が8月末に訪問し、UAEに追随するよう呼び掛けた。スーダンは米国によるテロ支援国家指定の解除を見返りに検討するとの見方がある。オマーンは2018年にイスラエルのネタニヤフ首相が公式訪問し、首脳間で中東和平について話し合った。
UAEやバーレーンがイスラエルと歴史的な和解を決めた背景にはイランの脅威がある。19年6月、イラン沖で日本などのタンカーが攻撃を受け、9月にはサウジアラビアの石油施設が無人機攻撃で破壊された。バーレーンは国民の多数がイランと同じイスラム教シーア派だが、内政の火種を承知で米主導のイラン包囲網に加わった。
かつての「イスラエル対アラブ」という中東の対立の構図が変わり、双方にとって「イランが共通の敵」に浮上した。アラブ諸国にとって先端技術に強いイスラエルとの産業協力という実利もある。
UAEは米国から最新鋭ステルス戦闘機F35の購入を目指す。イスラエルはこの取引にかねて反対を表明していたが、米政府高官は「検討中」としており、売却に向けて調整が進んでいる。
トランプ氏が仲介外交を加速させるのは大統領再選に向けて追い風になるとみているからだ。トランプ氏が支持基盤とするキリスト教福音派の多くはイスラエルの安全を重視する。福音派は米国人の約4分の1を占め、トランプ氏の再選に向けた票田となる。豊富な資金力を誇るユダヤ系米国人の支持を少しでも取り込む狙いも透ける。
1993年にイスラエルとパレスチナ解放機構(PLO)がお互いを認めて話し合いを始めたオスロ合意を仲介した当時のクリントン米大統領は仲介外交で支持率を大きく伸ばした。米調査会社ギャラップによると、クリントン氏の支持率は合意前に比べて9ポイント上昇して56%となった。
イスラエルとの国交正常化を「裏切り行為」と非難するパレスチナ自治政府は孤立感が深まった。トランプ政権が1月に示したイスラエルとパレスチナの和平の独自案に対し、パレスチナは内容がイスラエル寄りと反発し、膠着している。米国はアラブ諸国とイスラエルの接近を促すことで、パレスチナに路線転換を迫っている。
02年にアラブ諸国とパレスチナは、イスラエルとの国交正常化にはイスラエルの占領地撤退やパレスチナ国家の承認が前提との和平案で合意していた。アラブ世界のリーダーを自負するサウジアラビアは、この立場を支持すると強調している。サウジは現時点でイスラエルとの国交正常化に追随するそぶりは見せていない。
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