大阪・環状線発車音、笑い誘う 森ノ宮は「くまさん」
とことん調査隊

関西タイムライン
2020/9/15 2:01
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大阪城公園に行こうとJR西日本の大阪環状線・森ノ宮駅で電車を降りると、発車を知らせる「森のくまさん」のメロディーが聞こえてきた。なぜこの曲が流れているのだろう。環状線では19駅それぞれに合わせた音楽を設定しているという。採用された理由を調査してみた。

仕事帰りの会社員や若者でにぎわう天満駅では、人気シンガーソングライターのaikoさんの「花火」のサビが響く。「この発車メロディーを聴くために、遠方から訪れるファンもいる」。駅近くの天五中崎通商店街にあるもんじゃ焼き屋「もんじゃ屋」を切り盛りする久賀智子さんが教えてくれた。

この店にはaikoさんがデビュー前に訪れていたこともあるそうで、「発車メロディーに採用されて以降、お客の数も増えた」と久賀さんは笑う。駅の音楽は街にも影響を与えているようだ。

JR西が環状線の全駅に発車メロディーを導入したのは2015年。駅の改装や新型車両の投入などの「大阪環状線改造プロジェクト」の一環だった。選曲にあたり商店街や駅員を巻き込み特別チームを結成。1駅当たり最大11曲に上った候補からどう絞り込んだのか。理由を調べると3つの傾向が浮かび上がる。

まずは大阪やその駅にちなんだアーティストの楽曲だ。天満駅では大阪出身のaikoさんの曲から、天神祭にちなんで「花火」を選んだ。

「メロディーにはおはやしの『チンチキチン』という音を交ぜている」とJR西で「アーバン未来づくりプロジェクト」を担当する吉田敦亘さんが教えてくれた。おはやしだけの発車音も検討したが、曲の終わりが分かりにくいと見送ったそうだ。

2つ目は地元のシンボルから選ばれた曲だ。大正駅の周辺には沖縄料理店が多く、沖縄民謡の「てぃんさぐぬ花」が採用されている。

「苦戦したのがこの駅」と作曲を担当したステップ(大阪市)制作部長の大田結さんは振り返る。発車音の長さは電車の停車時間に応じて決まる。「大正駅は最短の5秒。ゆったりした曲調を時間内で表現するのに苦労した」

地元の沖縄出身者はどう見ているのか。名護市出身の福原健二さんは「沖縄の人にはなじみのある曲でいいのでは」。ただ、「踊りたくなる、にぎやかな曲でもよかった」とも話していた。

大阪らしさにはユーモアも欠かせない。3つ目はシャレから選んだ楽曲だ。新今宮駅ではビブラフォンで奏でるドボルザークの交響曲第9番「新世界より」が響く。観光地の新世界にちなんだ。

パリを意識した街づくりの構想があったことから「オー・シャンゼリゼ」も候補に挙がったが、地域の雰囲気に合わないとしてやめた。選曲に携わったコラムニストの前田将多さんは「どうしてこの曲なのかなど、ツッコミながら楽しんでほしい」と話す。

駅名にちなみ「森のくまさん」を採用した森ノ宮駅の近くでは「森のくまさんクレープ」も登場。「自然をイメージした抹茶味で、子供からも人気」と、商品を提供する「コスコクレープ」を運営するピンポン(大阪市)会長の衣笠茂行さんは話す。

ちなみにどの駅でも、発車メロディーを識別しやすくするため、高い音と低い音を交ぜているという。駅の雑踏の音と混ざりがちな、500ヘルツ程度の音も避けている。

「駅ごとに異なる楽曲を選べるのは、それぞれの街に特徴があるからこそ。大阪の文化の深さを表している」。鉄道の音楽に詳しい武蔵野大学客員教授の片倉佳史さんは指摘する。「発車メロディーをきっかけに観光客にも地域を発信できる。台湾の鉄道ファンが環状線のメロディーを話題にしている」という。駅の発車音から様々な大阪らしさが垣間見えた。

(泉洸希)

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