4番は最強打者の勲章 今季、各チームで活躍
スポーツライター 浜田昭八

監督だったときの野村克也さんが、打順についてよく言っていた。「4番打者が決まれば問題ない。4番は木でいえば幹。あとはそれに枝葉をつけるだけだ」。2番に最強打者を置く新しい用兵もみられるが、ほとんどの監督は今もチームの最強打者を4番に据えている。だが、その打者がそれらしく働かないと打線は機能しない。程度の差はあるが、今季のプロ野球ではほとんどの4番打者がそれなりに活躍している。
セ・リーグでは巨人・岡本和真とヤクルト・村上宗隆が「不動の4番」として光る。岡本24歳、村上20歳。まだ10年は打撃3部門のタイトル争いを続けそうだ。真のチームリーダーになるために、2人とも守備、走塁に磨きをかけることだろう。

広島の鈴木誠也、中日のダヤン・ビシエドは主砲の貫禄を備えてきた。注目の新4番はDeNA・佐野恵太。開幕前からラミレス監督が「4番は佐野」と言明し、その通りに押し通している。佐野もその期待に応え、大リーグ入りした筒香嘉智の穴を感じさせない大活躍だ。
昨季は代打の切り札で脚光を浴びた。代打起用が30打席以上の打者の中で抜群、3割4分4厘の好成績を残した。その勝負強さを買われ、終盤戦で4番のテストもされていた。フル起用されても落ち着いているのは当然だ。
パ・リーグでは楽天・浅村栄斗、日本ハム・中田翔が、脂の乗った打撃を見せている。2人ともフルスイングで有名な大阪桐蔭高の出身。プロでもそのスタイルを守っている。次元の高い本塁打、打点の2冠を争う様子は「パワーのパ」を象徴しているかのようだ。
もう一人、西武・山川穂高も4番の座を守っている。だが、枝葉との絡みで、チームの低調ムードに巻き込まれてきた。1番でチームを引っ張ってきた秋山翔吾は大リーグ入り、昨季のMVP森友哉は不振、打順を下げたが力のある中村剛也は故障。2年連続本塁打王、打点も124、120をマークした強打者も孤立状態に陥ることがよくあった。

注目の新4番はロッテ・安田尚憲。昨季イースタン・リーグの本塁打、打点の2冠王で、今季は三塁をブランドン・レアードと争うはずだった。ところが、レアードが腰を痛めて休んだので、7月下旬から4番に据えられた。1カ月後にレアードが治療で帰国したため、チームはなにがなんでも安田を4番に育てるという態勢になった。安田はその期待に応えているとはいえない成績だが、チーム挙げての後押しに勇気づけられている。
不動の4番がいるより、「浮動の4番」に悩むチームにドラマが多い。阪神は昨年、矢野燿大監督が就任したとき、大山悠輔を4番で通すと言った。白鴎大時代は大学全日本の4番に選ばれた。金本知憲前阪神監督もほれ込んだ逸材だが、チームを引っ張る気配が乏しい。8月初めに6番に下げられ、閉幕直前まで4番に戻れなかった。
今季の開幕戦は出番なし。7月に入って調子を上げ、4番に座ることが多くなった。だが4番になると打撃が小さくなり、打順を下げるとよく打つ。現在はジェリー・サンズ、ジャスティン・ボーアの両新外国人の間の5番でそれなりに打ってはいる。ナンバーワンになれない打者ではない。なろうと思わないタイプなのか。
ソフトバンクはコロナ禍で来日が遅れたジュリスベル・グラシアルが4番に収まりそうだ。ヤクルトから移籍のウラディミール・バレンティンの不調で、猫の目打線が続いた。最強打者は柳田悠岐だが、孤立を避ける工夫が色々と見られた。

面白かったのは控え捕手、栗原陵矢の抜てきだった。8月に短期間だが4番に据えられた。優れた打撃を生かすため、2軍落ちしている内川聖一の代役一塁手などでフル出場していた。4番になっても動じる様子はなく、最近まで5番などでフル出場することが多かった。
24歳、2年目のオリックス・中川圭太も突然、4番に起用されて周囲を驚かせた。西村徳文監督が退陣、中嶋聡2軍監督が代行監督になった8月21日に抜てきされた。期待にそえず、今は打順も上下している。だが、昨年のセ・パ交流戦で新人初の首位打者になり、6月下旬には短期間だが4番も経験した。今は打線形成も混乱しているが、中川の4番再起用もいずれあるに違いない。
ただそれよりも、本来の4番候補である新外国人アダム・ジョーンズが、持てる力をフルに発揮し、最強の吉田正尚と足並みをそろえるのが先決だろう。
巨人の原辰徳監督は現役時代、1066試合も4番に座った。1995年に引退するとき、巨人の4番は「聖域」だと言った。だれにも渡したくない最強打者の証明を、移籍入団の落合博満さんに奪われた悔しさがにじみ出ていた。巨人に限らず、4番は最強打者の勲章。敵と戦う前に味方と競う厳しさを、強打者たちは日々かみしめている。