津波避難タワー、計画の2割未完成 用地や予算が壁に

東日本大震災10年へ
2020/9/11 15:00
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津波からの緊急避難場所となる「津波避難タワー」(青森県八戸市)=同市提供

津波からの緊急避難場所となる「津波避難タワー」(青森県八戸市)=同市提供

地震に伴う大津波の襲来が想定されている自治体を対象に「津波避難タワー」の整備状況を日本経済新聞が調べたところ、計画の約2割が未完成であることが分かった。東日本大震災から11日で9年半となったが、用地選定や地元合意などに時間がかかり、予算確保も課題となっている。

政府の中央防災会議は(1)南海トラフ地震(2)首都直下地震(3)日本海溝・千島海溝沿いの地震で津波の想定を公表している。最大15メートル以上の津波が想定される17都道県の94市町村を対象に、8月末時点で計画している津波避難タワーの数と完成済みの数を調べた。210基(48自治体)が計画されており、うち約2割にあたる39基(16自治体)が未完成だった。

中央防災会議は2012年に南海トラフ地震の津波想定を公表し、三重県は14年に県内の浸水想定をまとめた。同県志摩市では地震発生数分後に津波が到達し、最大26メートルになるとされている。

志摩市は17年3月に津波避難計画をまとめ、既存の1基のほかに市内3~4地区に少なくとも10基のタワーを新設する予定だが、まだ1基も完成していない。最適な立地を検討し、地元の自治会や地主と交渉しながら用地を決めるのに時間がかかっている。地盤調査なども必要で、市の担当者は「地元と協議を始めてから最短でも4年はかかる」と話す。

愛知県田原市は高さ3~4メートルのタワー3基を建てる計画で、21年度の完成を見込む。当初は盛り土による「人工高台」を造成する予定だったが、地盤調査で液状化の恐れが判明し、計画見直しを余儀なくされた。

完成後に津波の想定が変わることもある。青森県八戸市は15年に約2億円かけて高さ約13メートルのタワーを建設した。その後、20年4月に国が新たな津波想定を公表し、県は浸水想定の見直しを進めている。市の担当者は「結果次第では建て替えが必要になる可能性もある」と話す。

緊急避難施設としてはタワーや人工高台のほか、既存のビルを活用する「津波避難ビル」も選択肢となる。調査した94市町村の7割にあたる66自治体がこうした施設の整備に取り組んでいた。

財政上の理由から施設整備を進められないところもある。北海道浜中町では最大22メートルの津波が想定され、住民からはタワーの設置を求める声もある。だが「冬は氷点下まで気温が下がり、避難場所とするには防寒設備も必要。人口が少なく、予算確保は難しい」と町の担当者は話す。

94市町村のうち、タワーなどの緊急避難施設の整備に取り組んでいる自治体の割合を地域別にみると、北海道38%、東北39%、関東(島しょ部含む)58%、東海100%、近畿93%、四国91%、九州80%と、「西高東低」の傾向がみられた。東海以西では南海トラフ地震対策として国の補助が手厚くなっていることなどが影響しているとみられる。

東北大の増田聡教授(都市・地域計画)によると、東北では東日本大震災後、より大規模な集落の高台移転や防潮堤の整備などの検討が先行してきた。増田教授は「緊急避難場所は『最後のとりで』。必要な地域に迅速に整備できるよう、実情に合わせて要件を緩和し、緊急度に応じた補助率を設定するなど、国による柔軟な支援が求められる」と話している。

■津波避難ビル、都心でも


 既存ビルを緊急避難場所として活用する「津波避難ビル」は都心でも整備が進められている。
 近年、ウオーターフロントとして再開発が進む東京・竹芝。14日に開業する複合ビル「東京ポートシティ竹芝オフィスタワー」は東京湾内湾に津波警報が発令された際、2~3階の屋外テラスが緊急避難場所として開放される。
 東京都港区によると、首都直下地震の発生時、竹芝周辺では津波で最大50センチの浸水が想定される。同ビルは避難者を最大1170人収容可能で、区防災課の担当者は「昼間働きに来る人も多いため、避難場所確保は課題だった。今後も民間事業者に協力を求めていきたい」と話す。
 津波避難ビルは、地震発生から津波到達するまでの間に、一時的に避難するための施設。自治体が所有者と協定を結んだ上で、あらかじめ指定する。国のガイドラインでは、耐震基準を満たすことや、浸水想定が1メートル以下なら2階建て以上など、指定に一定の要件がある。
 内閣府によると、東日本大震災後に指定が相次ぎ、2011年6月の1876棟から18年8月には1万4903棟に増えた。
 一方、住民への周知などで課題も浮かぶ。三重県四日市市は南海トラフ地震で最大5メートルの津波が到達し、市街地でも浸水を見込む。市は123棟を津波避難ビルに指定しているが、16年度に実施したアンケート調査では4割以上の市民が自宅の最寄りの津波避難ビルを「知らない」と回答した。市の担当者は「地元自治会に避難訓練を呼び掛けるなどして地道に周知を続けている」と話す。
 津波の襲来に備え、大学など5棟を津波避難ビルに指定する高知県南国市では、避難経路の安全確保が課題だ。南海トラフ地震で最大震度7の揺れが見込まれ、「住宅街に多く残るブロック塀が倒壊し、ビルへの避難の支障になる恐れがある」(市危機管理課)。市は費用を補助するなどして市民に撤去を促す。
 避難先に指定したビルが要件を満たさなくなるケースもある。静岡県下田市は一時は15棟を津波避難ビルに指定していたが、東日本大震災後に県が見直した被害想定に基づいて調査したところ、指定済みの15棟のうち14棟が、新たに想定された津波に対して高さや強度が不足していた。市は14棟の指定を取り消した上で、「現在は浸水域の外に早く逃がすことを重視し、高台への避難路の整備などに力を入れている」(市防災安全課)という。
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