我が家流「マネーの心得」説く お金に強い子の育て方
早稲田大学教授 井上達彦さん

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2020/9/22 2:00
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ビジネスに関する幅広い知見を持ち、商学の面白さを学生たちに伝えている早稲田大学商学部教授の井上達彦さん。プライベートでは3人の子の父親だ。子供たちには、「お金を身近な存在と思ってほしい」と願う井上さんは、どんなマネー教育を行っているのだろうか。

井上達彦(いのうえ・たつひこ)早稲田大学商学部教授。1997年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了、博士(経営学)。早稲田大学商学部助教授(大学院商学研究科夜間MBAコース兼務)などを経て2008年から現職。研究分野は、ビジネス・システム(価値創造システム)、ビジネス・モデル・デザイン、経営組織論、経営戦略論

井上達彦(いのうえ・たつひこ)早稲田大学商学部教授。1997年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了、博士(経営学)。早稲田大学商学部助教授(大学院商学研究科夜間MBAコース兼務)などを経て2008年から現職。研究分野は、ビジネス・システム(価値創造システム)、ビジネス・モデル・デザイン、経営組織論、経営戦略論

■PTA運営にも買い物にも商学は役立つ

──改めて、商学という学問について教えてください。

お金に関する学問というと、パッと思い浮かぶのは経済学と商学ですよね。どちらかというと、商学の方がなじみがないと思われている気がします。しかし実際は、実学に根差していてどんな人にも役立つ学問なのです。

経営資源をどのように組み合わせて価値を生み出し、利益に換えるか。組織をどのように動かすか。キャリアをいかに形成するか。商学で学べることは、身近な場面で応用が利きます。例えばPTAの役員になった時は、組織の動かし方が非常に重要です。商学は何も、起業家だけに向けた学問ではないのです。

──お子さんに商学を教えることはあるのですか。

"ビジネスパーソン"としての立場ではなく、"消費者"としての立場から商学を見つめる機会を与えます。

家計を考える上では、やはり浪費は禁物。一方で、世の中には人間の心理を利用した「消費させる仕組みづくり」が潜んでいるのだということは伝えなければいけません。国内外の研究を基に私が学んだことを、より身近なエピソードを添えて子供たちに教えています。

例えば、ある新製品が出ると旧型の製品が途端に古いものに感じられるという研究結果があります。その心理を利用して企業は次々と新製品を出し、消費者はそのたびに買い替える。このような人間の特徴を知っていれば、無駄買いを思いとどまることができます。

──確かに身に覚えがあります。

同じく買い物について、つい余計なものを買い足してしまいたくなる時がありませんか。ブラウスを買いに行くと、だんだんとそれに似合うジャケットが欲しくなってくる。あ、このズボンも合いそうだな……という具合で、気が付いたら支払額が膨れ上がってしまう。感覚として分かっている人も多いと思いますが、研究結果でも実証されています。

そういったことを子供たちに話していたら、先日買い物に行った際に「お父さん、ズボンを買いに来たのにそのTシャツは必要ないんじゃないの?」と息子に言われてしまいました(笑)。

■「所有から利用へ」変化する消費スタイル

──日ごろの教えの成果ですね。ただ、大学では"消費させる側"のビジネス手法を教える立場です。少し複雑な気持ちなのでは。

そうでもありません。なぜなら、先ほど言ったような「大量に物を消費させる」風潮は、確実に近年のビジネストレンドではなくなってきているからです。

人々の消費欲は着実に変化しています。「所有」を求めるのではなく、サービスの「利用」を求める時代になっている。シェアビジネスの発展を見ても明らかですよね。物を持つよりも、「利用」という目的を果たせればそれでいいという人が増えています。

ただ、より多くの物を買わせようとする企業がまだ残っているのも事実。だから、昔ながらの消費文化に沿ったビジネス手法を教えて不必要な買い物を防止させます。

■お金をよく知り、友達になる

──無駄遣いをしない秘訣ですね。

一方で、お金と距離を置かないでほしいとも考えています。お金を得ようとする企業の意思そのものは卑しいものではない。

日本では、親が子供の前でお金の話をするのを忌み嫌う風潮があります。金もうけは悪だとか、お金はトラブルのもとだとか。確かにお金で痛い目を見る人はいますが、それはお金が悪いのではなく、付き合い方を考える必要があるだけだと思います。

ですから子供たちが中学校に上がるタイミングで、ちょっとしたメッセージ文を渡します。「マネーの心得」のようなものです。起業支援を行う浜口隆則さんの著書にあった、起業家向けメッセージを参考に作成しました。内容は「お金を友達だと考えよう」というもの。友達ならば、プラス面マイナス面も含めて向き合う必要があります。

小さな子でもお金と友達になっている国が、米国です。私は2012年からの2年間、在外研究のため米国で暮らしたことがあるのですが、現地では驚きました。お金を身近な存在と捉えている子供が本当に多い。

■手作りブレスレットを学校で友達に売る

──具体的にはどういったことでしょうか。

例えばガソリンスタンドで給油していると、小学校高学年ぐらいの子供が小遣い稼ぎのためにレモネードを売りにやって来る。米国のアニメなどでよく出てくる光景ですけれど、現実でも同じでした。

こんなこともありました。次男が現地の小学校から帰ってくると、腕にブレスレットを着けている。「それどうしたの」と聞くと、「友達から買った」というのです。ビーズを輪ゴムに通して作ったお手製のもの。値段は1個25セント(約25円)ぐらいでした。驚きましたね。日本だと、親が問題視してPTAの議題に挙がってしまうかもしれません。実際、教室での金銭授受を禁止している日本の学校もあります。色々なトラブルを避けてのことなのでしょうが。

──向こうは寄付についても積極的なのだとか。

子供たちを通わせていた学校では、寄付の競争がありました。クラス対抗で、寄付のために1セントをどれだけ集められるかを競うのです。これも、日本でやるとちょっと批判を浴びそうですよね。「慈善活動のために集めるお金を競わせるなんて」といった具合に。

でも、ベルマークや空き缶は集めた数を競わせても問題にならないでしょう。何か、お金を特別視し過ぎている気がします。私自身も、日本で持っていたそうした先入観が外の世界に出ると当たり前ではないということにカルチャーショックを受けました。

■お金を稼ぐことをポジティブに捉える

──お子さんたちも、お金を身近なものと感じることができたのでしょうね。

日本に帰ってからも、「お金を得ようと考えることは悪いことではない」という感覚を持ち続けてくれればと思います。別に起業をしろと言っているわけではないのです。ただ「稼ぐ」ことについては、身構えないで身近なものだと捉えてほしい。

──将来の仕事については何か話をしていますか。

仕事についての声掛けは難しいですよね。商学を教えていて思うのは、お金を稼ぐことはポジティブな行為であるのだけれど、それが目的化してはいけないということ。成し遂げたいことの行動指針があるビジネスパーソンが成功すると感じています。

行動指針の基となるのは「こういうことがしたい」という夢です。どうすれば夢を持ちやすい環境をつくれるだろうか、と考えています。一つ思うのは、「自分なんて」という謙遜をさせないことでしょうか。これも米国の経験ですが、家庭教師として呼んでいた高校生たちが皆、自分の夢を明確に話していた。「ビッグマウスなぐらいでいい」と伝えていければと思います。

(大松佳代)

[日経マネー2020年11月号の記事を再構成]

日経マネー 2020年11月号 年末高の波に乗れ! 年後半の稼ぎ方&勝負株

著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP (2020/9/19)
価格 : 750円(税込み)

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