ECB総裁、ユーロ高けん制 物価下落に焦り?

【ベルリン=石川潤】欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は10日開いた政策理事会後の記者会見で、急速なユーロ高について「注意深く見守っていく」とけん制した。「ユーロの上昇は物価に悪影響を及ぼす」ためで、物価2%目標の達成がさらに遠のくことへの焦りもにじませた。
あからさまな為替相場への言及は各国・地域による通貨安競争につながりかねないため、控えるのが中央銀行のルールだ。ところがラガルド総裁は会見でユーロ高への警戒を繰り返し表明し「理事会でまさに幅広く議論された」と語った。
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「為替相場は政策目標ではないし、水準にはコメントしない」とも述べたが、対外的に許されるぎりぎりの表現で金融市場に強いメッセージを送ろうとした節がある。
ユーロ相場は5月以降、対ドルで約1割も上昇した。通貨高は経済のけん引役である輸出にマイナスなだけでなく、輸入物価の下落を通じてインフレ圧力を弱める。
このままユーロ高が進めば、ただでさえコロナ禍で不安定な経済がさらに揺らぎかねない。ユーロ圏の物価上昇率は8月にマイナスに転じ、ラガルド総裁によると年内はマイナス圏に沈み続ける可能性が高い。そうした危機感がラガルド総裁の一連の発言につながったとみられる。
もっとも、金融市場はラガルド総裁が会見の冒頭で述べた「強い回復」という言葉に反応し、むしろユーロ高に動いた。総裁は「必要に応じてあらゆる手段を用いる」と改めて表明したが、金融緩和の限界を見透かす向きもある。
ユーロ高の原因のひとつは米国の金融緩和の長期化観測だ。ラガルド総裁は米国の金融政策をにらみながらの難しい政策運営を迫られそうだ。
ECBは10日の理事会で金融政策の現状維持を決めた。同日公表した新しい経済見通しでは、20年の成長率をマイナス8.7%から同8%に上方修正する一方、同年の消費者物価上昇率は0.3%に据え置いた。