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湯河原の名店が大幅刷新 つけ麺を2種類のタレで堪能

絶対的なクオリティーを持ち合わせた「らぁ麺飯田商店」のつけ麺

かつて、全国各地で「濃厚つけ麺」ブームが起き、数多くの店がいかに濃厚で粘度が高い一杯を提供できるか競い合った時代(全盛期は00年代の半ば頃)があった。それから10年以上が経ち、濃厚つけ麺ブームは今、沈静化の兆しを見せる。いくつか要因はあるが、がっつり系ラーメンの代表格といえる「二郎インスパイア系」が全国に普及し、日常化したことが大きい。

上質ではないつけ麺の淘汰も進み、現在根強い人気を誇るものは、ブームだった頃とは比較にならないほどハイレベルなものになっている。絶対的なクオリティーを持ち合わせ、生涯にわたって食べ続けられる1杯を提供している店も少なくない。今回はその代表格とでも言うべき神奈川県の名店『らぁ麺飯田商店』のつけ麺を紹介しよう。

●らぁ麺飯田商店

~これはもう「つけ麺」という名のコース料理だ。新たな時代を拓く、革新的な1杯~

店舗はJR湯河原駅から徒歩約10分の神奈川県足柄下郡湯河原町土肥にある。2010年、同地で産声を上げた店主・飯田将太氏が率いる『飯田商店』は、開業から10年の時を経て、誰もが認める日本ラーメン界の第一人者へと成長を遂げた。

JR湯河原駅から歩いて10分弱の距離にある「らぁ麺飯田商店」の内部

「『飯田商店』が手掛ける1杯がどんなラーメンで、同店が今後、どのような方向へとカジを切るのか」。その動向は作り手である全国各地のラーメン店主からも注目の的となっている。決して大げさではなく『飯田商店』の展開ぶりが、日本のラーメンのこれからを左右する要因の1つになっているのだ。

そんな同店が昨年(2019年)、全国のラーメン店に多大な影響を与え、多くのフォロワーを生んだ鶏と水のみで出汁(だし)を採った「淡麗ラーメン(いわゆる鶏水=とりみず=系)」と「昆布出汁に麺を浸した淡麗つけ麺」の提供を中止し、完全オリジナルの新メニューの提供を開始した。

現在、同店が提供する麺メニュー「しょうゆらぁ麺」「しおらぁ麺」と「つけ麺」は、いずれも昨年以降に大幅モデルチェンジが施された新作である。

同店の「顔」として君臨する「しょうゆらぁ麺」は、地鶏の丸鶏・ガラからと、国産豚の肉・ガラなどから採った出汁を提供直前に混ぜ合わす。数種類のしょう油をブレンドしたタレを折り重ねたスープが、他を寄せ付けない圧倒的なクオリティーを誇る。名実ともにしょう油ラーメンの日本代表と言っていい。「王道」の淡麗しょう油の頂に位置する名品だが、「つけ麺」は、汁そばとは視点を変え、職人・飯田店主の最新の技術の粋を凝らしたギミック(仕掛け)の塊のような1杯になっている。

「つけ麺」もしょう油と塩の2種類がある。ここでは、飯田店主もオススメと太鼓判を押す「つけ麺しお味」について言及させていただこう。

眼前に配膳されるのは、2種類の麺とつけダレ。

らぁ麺飯田商店のお品書き。見栄えするフォントがセンスの良さをうかがわせる

メインを張るつけダレは、動物系素材が持ち合わせるうま味を前面に押し出し、最高品質の鶏油を折り重ねた、薫り高くコク深い絶品だ。飯田店主曰(いわ)く、「出汁自体から抽出される分厚いうま味を存分に堪能いただくため、塩ダレを作らず、ダイレクトに塩だけを用いました」。見た目からも、タダものでないことが瞬時に分かる会心のスープに仕上がっている。

サブ的な役割を担うもうひとつのつけダレは、節系素材としょう油の風味を伸びやかに表現し、「和」の趣深き逸品だ。ソバつゆを彷彿(ほうふつ)とさせるビジュアルに、日本人なら口を付ける前から高揚感を抱くはずだ。

タレだけを変えるありふれた手法ではなく、だしも含め、製造過程を全く異にする2種類のつけダレ。膨大な手間ひまが掛けられていることは、もはや言をまたない。

複数の麺が提供されることも、飯田店主ならではの確固たる理由がある。ひとつは、美しい褐色を帯びた、断面が四角いストレート麺、もうひとつは、箸でつまむとしなやかにたわむ、純白のストレート麺だ。前者は、麺自体に麗しいムギの香りをまとわせ、放たれる芳香との相乗効果で、つけダレの風味を引き立てる。後者は、類いまれな啜(すす)り心地の滑らかさにより、つけダレそのものの味わいが堪能できる。

食中に提供される昆布出汁とチャーシュー。味のさらなる変化に一役買う

2種類の麺とつけダレの組み合わせ。それだけで2×2の4通りの味わいが楽しめるが、実は、ここから先がこのつけ麺の真骨頂。ある程度麺を食べ進めた頃合いを見計らい、さらに、コンブを主軸とした濃密なだしと、薄切りチャーシューが、タイミング良く提供されるのだ。

「だしは麺に掛け、チャーシューは『しゃぶしゃぶの肉』のように、つけダレで泳がせて召し上がってください」

言われるがままだしを麺に掛ければ、コンブ水の膜が「外套(がいとう)」のように麺の表面を包み込み、味蕾(みらい)が感知するうま味がより重層的なものへと進化。チャーシューからスープへとしみ出す塩分が、つけダレに動物系由来の力強さを付与し、「全く新たな1杯」をいただいているような感覚を抱かせる。

最近の創作ラーメンを指し示す表現として「コース料理を食べているかのような感覚が味わえる一杯」といった言葉があるが、『飯田商店』のつけ麺は、まさに麺とスープを用いたコース料理と断言できる。いかなるラーメンマニアであっても、同店の「つけ麺」の前では「初心者」へと立ち戻る。

職人が自分自身の頭をフル回転させて、ゼロから創り出した一杯。同店の「つけ麺」ほど、その言葉がふさわしい一杯はない。

『飯田商店』の「つけ麺」は、そんなつけ麺の歴史の「時計の針」を一気に数十年分進める離れ業をやってのけた一杯といえる。まさに「別格」ともいえるその凄(すご)みをぜひ実感してもらいたい。

(ラーメン官僚 田中一明)

田中一明
1972年11月生まれ。高校在学中に初めてラーメン専門店を訪れ、ラーメンに魅せられる。大学在学中の1995年から、本格的な食べ歩きを開始。現在までに食べたラーメンの杯数は1万4000を超える。全国各地のラーメン事情に精通。ライフワークは隠れた名店の発掘。中央官庁に勤務している。

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