米大統領選 「バイデン氏勝利」は株安リスク?
エミン・ユルマズの未来観測

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2020/9/11 2:00
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カマラ・ハリス上院議員=ロイター

カマラ・ハリス上院議員=ロイター

混迷を深める世界経済や国際秩序。時代の先を読み解くヒントを、トルコ出身のエコノミスト、エミン・ユルマズ氏が独自の視点から解説します。

■市場関係者が身構えるリスク要因

米国の大統領選挙まで2カ月を切りました。世論調査では現在のところ民主党のバイデン氏が共和党のトランプ大統領をややリードしていますが、市場にはバイデン氏当選は株安につながるとの懸念があるようです。

この懸念はある点では正しく、ある点では誤解に基づいているように思えます。バイデン氏が掲げる経済政策のうち、増税は相場を押し下げる方向に働くでしょう。彼が77歳という高齢である点も不安要素ではあります。ただ、バイデン政権誕生で米国の対中政策が大きく中国寄りになり、米国が中国との覇権争いで劣位になるという見方は誤っています。バイデン政権誕生なら米国と株式相場はどうなるのかを点検してみましょう。

■増税は一時的な相場の下落要因に

私はバイデン氏が勝利した場合、就任1年目は株式相場はやや調整するとみています。

エコノミストのエミン・ユルマズ氏

エコノミストのエミン・ユルマズ氏

その理由の一つが、前述したバイデン氏の増税策です。格差解消の観点から、バイデン政権下の税制改正では所得税の最高税率が現在の37%から39.6%へと引き上げられるほか、法人税も大幅な増税となる見通しです。減税を掲げるトランプ大統領とは、大きく異なる点と言えます。

相場への影響が大きそうなのは、株式などの売却益にかかるキャピタルゲイン課税です。バイデン氏は年100万ドル超の高所得者の税率を所得税と同じ39.6%へ高めるとしています。現在が20%ですから、税率は一気に倍近くになります。株取引に直結した増税だけに、売り要因となるのは想像に難くありません。

また、相続税制の改正も懸念されそうです。バイデン氏は富裕層への増税の一環として、株式を相続する際の課税率も引き上げる方針です。これを嫌気し、相続の際に株式を売却する動きが広がるかもしれません。

これらの売りは増税に伴うものであり、そこまで長期化はしないと思います。それでも、一時的な下落要因とはなるでしょう。

■中国の動きには要警戒

もう一つの懸念材料が地政学リスクです。米国の政情が不安定な大統領選前後に中国が何かしら軍事的な行動に出てくる可能性はあります。その際、地政学リスクの高まりに応じた売りが出るかもしれません。

8月中旬には、中国の習近平国家主席が「光盤」キャンペーンを始めたと報じられました。光盤は「皿を空にする」という意味で、実質的な「食べ残し禁止令」と言えます。食料危機に対する備えであると考えるなら、中国の内部事情は我々が考えるよりも切迫しているのかもしれません。国民の不満を内から外に向けるため、中国がこれまで以上に周辺諸国に対して示威的な行動を取る可能性は念頭に置いておくべきでしょう。

■大規模な経済対策はどちらが勝っても継続

それでも、相場の先行きについて私は楽観的です。トランプ大統領が勝とうがバイデン氏が勝とうが、コロナ禍で落ち込んだ経済を立て直すための大規模な経済対策を打つという点には変わりがないからです。そもそも、大統領就任1年目の米株のパフォーマンスは、選挙の年より劣る傾向があります。トランプ再選でも株価はバイデン当選時と似た動きになるでしょう。

コロナ禍で個人のマネーが株式市場に流入する状況も続くでしょう。米国ではクレジットカードの債務が大きく減った一方、オンライン証券を使った取引額は急増しています。コロナ禍では、個人は消費の代わりに投資をしているわけです。個人に対する現金給付も米株高の要因と言えます。米連邦準備理事会(FRB)による金融緩和策は当面の継続が見込まれる中、相場は上昇基調が続くと考えています。

■対中強硬姿勢が弱まることはない

一部で懸念されているバイデン氏当選時の対中政策の転換リスクですが、私は気にしなくてよいと思います。民主党はもともと人権問題では共和党以上に中国に対して強硬です。その厳しい対中姿勢が端的に表れているのが、副大統領候補にカマラ・ハリス上院議員が選ばれたという事実です。

ハリス氏は「黒人女性」としてメディアで紹介されがちです。有色人種の票を取り込む狙いは否定しませんが、より重要なのは彼女の母親がインド出身であるということです。この点は対中政策において非常に象徴的な意味を持ちます。

中国とインドは長年対立関係にあります。6月には両国の国境で多数の死者を伴う衝突があったばかりです。そうした中でインド系の副大統領が誕生することになれば、これは対中政策では妥協しないというメッセージとなります。

以前もこのコラムで指摘しましたが、インドの宗主国であった英国が厳しい対中姿勢を明確にしたのは大きな意味を持ちます。民主党政権になれば、米英印が提携して中国を包囲するというような構図になるでしょう。この中で、「ポスト中国」としてのインドの存在感も高まるとみています。

それでは日本はどうなるでしょうか。対中包囲網が強化されるなら、日本の恩恵は小さくありません。次世代通信規格「5G」では中国・華為技術(ファーウェイ)から日本企業へのシフトが進みそうです。香港から東京へ金融拠点が移る期待もあります。

民主党政権誕生で、国際協調の側面から環太平洋経済連携協定(TPP)に米国が復帰することも考えられます。自由貿易の観点からすれば、これも日本にとっては悪くありません。中国との対決姿勢が強まるのならば、太平洋の安全保障の要を握る日本の存在感は高まると言えるでしょう。バイデン氏勝利でも、日本に吹く追い風は続くとみています。

エミン・ユルマズ
トルコ出身。16歳で国際生物学オリンピックで優勝した後、奨学金で日本に留学。留学後わずか1年で、日本語で東京大学を受験し合格。卒業後は野村証券でM&A関連業務などに従事。2016年から複眼経済塾の取締役。ポーカープレーヤーとしての顔も持つ。

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