高潮に負けないイネ、塩害地でも収量アップ

2020/9/10 2:00
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塩害に強いイネは地表面に根を伸ばす。根の一部を地上に露出させる(農研機構提供)

塩害に強いイネは地表面に根を伸ばす。根の一部を地上に露出させる(農研機構提供)

根を地表すれすれに張って高潮などに負けないイネが登場した。農業・食品産業技術総合研究機構の宇賀優作上級研究員らの研究グループが開発したイネは、塩害地で起きやすい酸素不足の影響を受けずすくすく育つ。世界の耕作地を見渡すと、塩害は干ばつとともに農業生産に大きな被害をもたらす主要因だ。2050年までに世界の農耕地の約50%が塩害の影響を受けるともいわれる。日本発のイネが世界の食糧不足の救世主になるか。

近年農作物への塩害の被害は増加している。地球温暖化によって海水面が上がったり、巨大な台風の増加で高潮の被害が広がったりしているという。中国の河川上流域で巨大なダムが建設され、川の流量が減って海水が川に流れ込むこともベトナムやバングラデシュなどで起きている。国内でも19年の台風17号では佐賀県で高潮の被害が起きた。

塩害は農業に大きなダメージを与える。人間が塩水を飲んで喉が渇くのと同じように、塩分の多い土壌の農作物は水分が不足して枯れてしまう。これだけではない。さらに深刻なのが土壌の変化だ。塩分で土の成分が変わってチョコレートのように固まってしまい、土壌が酸素不足に陥ってしまう。

そこで研究グループは空気が豊富な地表近くに根を張れば、酸素不足が解消できると考えた。インドネシア産の一部のイネが地表近くに根を張ることに着目し、根の張り方に関わる遺伝子を特定した。この遺伝子があると重力に従って地中に根が伸びていかず、地表面に根を伸ばす。他の日本のイネなどではこの遺伝子は機能していない。

インドネシア産の地表近くに根を張るイネと日本のササニシキを掛け合わせて、塩害を受けた土壌でも育つイネを開発した。根が土の表面へ張るようになり、酸素不足の状態を解消できた。

開発した塩害に強いイネと元のササニシキを塩害を再現した試験用の水田で栽培すると、塩害に強いイネの方で約15%収穫量が上がった。イネの形や倒れやすさへの悪影響もないという。塩害を受けていない通常の水田に植えて元のササニシキと比較すると、収穫量は変わらなかった。まだ塩害が起きていない地域でも、いつ起こるかわからない高潮などの被害に備えて塩害に強いイネを植える対策にもつながると期待する。

これまでにも塩害に強いイネは開発されてきた。主に塩分を含んだ水を取り込んでも植物から水分が抜けにくくするタイプが多い。土壌の酸素不足には効果がなかった。塩害が起きていない状態では普通のイネに比べて収穫量が下がってしまい、実用的でなかった。

土壌が酸素不足になる原因は塩害に限らない。排水が悪かったり、鉄が過剰になったりした水田でも土壌の酸素不足が起こる。開発したイネは塩害以外が原因で酸欠を起こした土壌でもきちんと生育し、収量も確保できそうだという。

一般的なササニシキは根を土の中に張る(農研機構提供)

一般的なササニシキは根を土の中に張る(農研機構提供)

日本のイネの開発技術は高く、海外からも注目されている。宇賀上級研究員らは、これまでに干ばつに強いイネを開発してきた。塩害に強いイネと逆で、根を深く張ることで水不足を解消する。干ばつに強いイネは既にフィリピンで実証試験を実施中だ。

今回の塩害に強いイネは遺伝子組み換えなどの技術を使っていないため現地でも扱いやすい。塩害被害の大きい東南アジアで応用できる可能性が高い。研究グループは、ベトナムやバングラデシュなど塩害被害の多い地域の品種との掛け合わせを目指す。宇賀上級研究員は「現地のニーズと環境にあった塩害に強いイネの開発を進めていく」と意気込む。

(下野谷涼子)

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