競馬実況アナ日記

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無観客の今、阪神競馬場前の名店に聞く

2020/9/12 3:00
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阪神競馬場最寄りの阪急仁川駅前の「フランケル」

阪神競馬場最寄りの阪急仁川駅前の「フランケル」

2月29日に始まった中央競馬の無観客開催は、既に10月4日までの延長が決まっています。もう半年以上、あるべき歓声に耳を傾けることができていません。

「家に帰るまでが遠足」という言葉を聞いたことがあります。競馬場に足繁く通っていた皆さんにとっても、「家に帰るまでが競馬」だったのではないかと思います。

無観客競馬が始まった時、静まり返った阪神競馬場の光景も受け入れ難いものでしたが、競馬場の通用門を出て、あっという間に日常に引き戻される感覚もまた、信じ難いものでした。閉め切られた空間で仕事をした後、多くの人が乗る電車に揺られ、帰路につく。なのに、競馬場にはお客さんが入れない。頭ではわかっていても……。

最寄り駅前のうどんとカクテルを楽しむ店

無観客競馬が始まった2月29日は、今年の阪神競馬の開催初日。桜花賞や宝塚記念を含め、ファンを迎えられずに行われてきました。この状況下、競馬場近くで逆風を正面から浴びている人もいます。

阪急今津線の仁川駅。駅前の商店街の一角に「フランケル」といううどん店があります。2010年代の欧州を沸かせた名馬の名前がついたこのお店では、テレビで競馬観戦をしながら創作うどんや、競馬にちなんだカクテルやお酒を楽しむことができます。

本来なら競馬開催の後、多くのお客さんでにぎわうはず。店のことが気になった9月のある日、競馬開催のない仁川へと向かいました。

ランチタイムがひと段落する午後2時。店主の原田圭祐さんが笑顔で迎えてくれました。

「(競馬開催日は)ずっと店のテレビで競馬を見ています。うどんの準備が手につかなくなることもしばしばで……。山本さんは競馬実況で札幌へ行ったり、小倉へ行ったり大変ですね」

「フランケル」の「鶏天おろしぶっかけうどん」

「フランケル」の「鶏天おろしぶっかけうどん」

原田さんは私たちの放送をよく聴いてくださっている熱心なリスナーの一人。店ではコシの強いうどんを天ぷらなどとともに楽しむことができ、米国のビッグレース・ケンタッキーダービー公式バーボンであるウッドフォードリザーブなど、お酒も種類が豊富です。

今年は競馬開催の後に何度か、テークアウトでうどんを買って帰りました。家に着く前に食べてしまいそうになるのを我慢しながら、家路についています。

競馬がなくてもお客はくるが……

フランケルは地元の人にも愛されています。

「(平日については)6月くらいまではなかなか厳しい状況でしたが、そこから少しずつ人が戻ってきていると思います。この辺りはベッドタウンですが、お盆は帰省する人が少なかったみたいで、例年よりはお客さんが入ってくれました。でも、週末は厳しいですね。競馬場からお客さんが流れてこなくなってしまったので……」

原田さんは我々の知らない仁川、我々の知らない阪神競馬場の風景を教えてくれました。

「桜が咲くころの阪神競馬場には、平日から多くの人が来ています。宝塚記念の前日は街全体がそわそわするんです。翌日の競馬を見よう、という人が夜遅くに店へ来てくれたりするんですよ。毎週、水曜日とか木曜日の夜は、お客さんと(馬の)調教の動画を見たりするんです。レース前日や当日は予想をしたり、反省会をしたりします」

そういった日常も今は遠くのものになってしまっています。

「クラブ法人の出資会員の方が『少しでも競馬場の近くでレースを見たい』と言って、店にいらっしゃる方もいるんです。当然、競馬場には入れないんですけどね。今年の桜花賞の時にもその方が持っているデアリングタクトが勝ちました。会員を10年間やってきて、初めての重賞制覇、初めてのG1制覇だったと言っていました」

デアリングタクトはその後、オークスを制覇。10月18日に京都で行われる秋華賞を勝てば史上初の、デビュー以来無敗での3歳牝馬三冠を達成することになります。その瞬間が訪れるのか、その"オーナー"が立ち会えるのか、今の時点では分かりません。

9月、事業所での馬券販売を再開。観客が競馬場に戻る一歩となるか=共同

9月、事業所での馬券販売を再開。観客が競馬場に戻る一歩となるか=共同

無観客でも競馬があるから、店は続ける

中央競馬は無観客開催とはいえ、ここまで大きな日程変更もなく開催を続けることができています。競馬場にも、自らの店にもお客さんを迎えられない状況で、ぶしつけかもしれないとは思いつつ、ここまで競馬が続いていることについて尋ねてみました。

「支え、ですかね。こういう状況になって、競馬まで無くなってしまったら、僕はつらかったと思います。競馬を見ている間は、色々なことを忘れさせてくれますからね。今はとにかくお客さんが競馬場に入れるようになるまで頑張ろう、と思っています」

阪神競馬場まで歩いて数分の場所にいながら、生の競馬が見られない、という状況にあって、原田さんはこう話してくれました。

日本中央競馬会(JRA)は7日、阪神競馬場を含めて全国の事業所で、メインレースを中心とした一部レースの発売再開を発表しました。営業日時、レースを制限した上での再開ではありますが、ここにきて大きな一歩を踏み出すことになりました。競馬が誰かを支えられるうちに、競馬場が歓声の中心に戻ること、そして、最終レースの後に飲み歩けるお店が一軒でも多く残ってくれることを願ってやみません。

(ラジオNIKKEIアナウンサー 山本直)

各アナウンサーが出演、ラジオNIKKEIの競馬番組はこちらでチェック! http://www.radionikkei.jp/keibaradio2/

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