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「適塾」の志で科学者育む 河田聡さん

関西のミカタ 大阪大学名誉教授

かわた・さとし 1951年大阪府池田市生まれ。79年大阪大院博士課程修了。93年阪大工学部教授。2013年特別教授。17年より名誉教授。日本分光学会と応用物理学会の会長や、理化学研究所の主任研究員も務めた。

■液晶ディスプレーや光ファイバー、顕微鏡――。大阪大学名誉教授の河田聡さん(68)はこうした製品を支える光学・分光学研究の世界的な権威だ。祖父と父も阪大卒、自宅は大阪府池田市内でキャンパスの近くという家庭で育った。

河田家で大学といえば阪大のこと。知らず知らずにすり込まれていたのか、私は深く考えずに阪大工学部に進んだ。研究者になったのも、家庭にサラリーマンがおらず会社勤めのイメージが湧かなかったことが一因だ。

2003年に研究の傍ら起業し、特殊な顕微鏡を開発するナノフォトン(大阪市)を設立した。「工学部の教授は人に役立つものを作るべきだ」と常々考えていたからだ。研究して論文を書くだけでは誰も聴いていないコンサートを開いているようで物足りなかった。今では国内外の電池・半導体大手が当社の顕微鏡を使っている。

光は阪大で古くから盛んに研究されてきた。例えばソニー創業者の盛田昭夫氏が師事した浅田常三郎氏は代表的な研究者だ。1939年に大阪・中之島の校舎から朝日新聞社の屋上に光を使って音楽を送った。この実験は光通信の先駆けとして知られる。

■関西の大学の特長が薄れ、多様性が失われつつあると警鐘を鳴らす。

関西の特色は多様な点だ。京都や大阪、神戸、奈良など各地域で言葉や文化が異なり少し話せばどこの出身かわかる。大学も多様だ。阪大は大都市にあり工学や医学など実学に強い。京都大は土木や化学など歴史ある学問、神戸大は経営分野の研究に優れる。

近年こうした特長が薄れているように感じる。あふれる情報に振り回され、横並び意識にとりつかれているのではないか。みな一様では科学や産業、芸術は育たない。大学はあえて周囲の情報から離れ、各都市の「クセ」が育んだ持ち味を磨いてほしい。

大阪府立大と大阪市立大が統合する。大学は水道など一般的な公共サービスとは別物であり、規模を追うのは反対だ。小さく異なる大学が散らばってモザイク模様を彩る。仲が悪くていい。互いの違いを意識し競い合えばいい。そんな多様さが新たなものを生み出すのだ。

「科学者維新塾」は阪大の源流となった緒方洪庵の「適塾」を参考にした

■博士課程の学生ら約30人が各界で活躍する人に話を聞く「科学者維新塾(科新塾)」を立ち上げるなど、人材育成にも力を注ぐ。

科学者維新塾は阪大に限らず関西や関東の学生を集め、東京と大阪で毎月開く。講師は学生が探し、酒を片手に夜遅くまで語り合うこともある。参考にしたのは阪大の源流となった緒方洪庵の「適塾」だ。全国から来た西洋医学の学生を育て、福沢諭吉など医学以外も多く人材を輩出した。

学生には「博士を取って専門家になるな」と言っている。博士という言葉の由来をたどるとある分野に特化した専門家ではなく、幅広い分野に通じた人という意味だ。今の社会には幅広い知識を生かして未知の問題を解決をする人材が求められている。

一方、大学を外部に開かれたものに変えようと「平成洪庵の会」という組織も立ち上げた。阪大の構内で教授や学生に加え弁護士や芸術家などが集まって毎回異なる話題を議論してきた。今では異業種交流の場になっている。8月は「コロナと教育」をテーマに話し合った。

新型コロナウイルスの流行により、大学はオンライン講義を続けている。大教室の一方通行の講義はともかく、少人数で実験器具に触れたり議論したりする機会は画面上で代替できない。感染対策を徹底した上で面と向かった授業を実施すべきではないか。大学は今、教育を担う公的機関としての社会的責任を問われている。(聞き手は梅国典)

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