今日も走ろう(鏑木毅)

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オンライン授業の可能性 ゼミでの激論、今も忘れず

2020/9/10 3:00
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7月中旬に母校の早稲田大学の講師としてオンライン授業をさせていただいた。当初はオンラインでこちらの意図が伝わるか心配だったけれど、学生たちの熱意を十分に感じ取れ、自分の経験や考えが画面を通してでも的確に伝わったようで満足した。後日、送られてきた学生の授業に対する感想文は講師の意をしっかりと踏まえたものだった。

勉強不熱心な大学生だったがゼミの授業は刺激的だった

勉強不熱心な大学生だったがゼミの授業は刺激的だった

今回の授業は、依頼元である担当の先生の十分な準備と、学生諸君の前向きな態度に驚かされる一方で、少々うらやましくもあった。自分の大学時代を振り返ってみれば、何年もずっと同じ講義内容をただ読み上げているだけの先生もいた。自分自身、あまり真面目な学生とはいえず、授業は代返か、たとえ出席したとしても居眠りしていることの方が多かった。

ただひとつ思い出深いのはゼミのことである。マスメディアへの就職を目標としていたため、新聞学のゼミを取っていた。夏合宿では昼間の演習が終わると夜は懇親会という名の集団討議が始まり、各学生が口角泡を飛ばし持論を展開する。普段は温厚で何事にも紳士的な物腰の先生が、お酒が入ったのも手伝ってか、突然熱っぽく語り出し、「君たちの意見は視野の狭い、独りよがりな考えばかりだ」とひとつずつ論破していった。

後期の授業では先生との距離が近くなり、前期は一方的だった授業も、学生の質問などで時に脱線した。ただ、その半ば無駄にも思える時間の中に学ぶべき本質があったように思える。卒業後30年たっても、いまだにこのゼミでの先生と生徒の高揚した空気感は忘れられない。そして持論を展開するにはまず相手の考えをしっかりと聞き、何よりも常に現状を疑い自分の考えをまとめること、ひいては熱を持って生きること、自己主張の大切さを学んだ。

オンライン授業には大きな可能性を感じる。授業は第三者にも見られる可能性があり、質の高い授業は大学の垣根を越えて、それを求める人たちに広く届けることができるだろうし、より社会のニーズに応じた授業が増えてくるのではないだろうか。そして大学の知名度、立地、施設の充実度だけではなく、各大学の打ち出すビジョンや授業内容の質で競争する時代になりそうだ。

とはいえ大学で学ぶべきことは、単純な知識や明確な答えが用意されたものばかりでなく、問い自体を自分で探し出すことにある。その問いの先にある真理を追い求める姿勢を教授と学生が互いの肌感覚を通じて学ぶのが根幹ではないか、とも思う。その点、効率重視のオンラインでは代替不可能な部分もある。

無用の用、ともいうではないか。一見、ただの雑談だったり、脱線問答だったりする教師と学生同士の自由なやりとり、双方が織りなす学ぶ場のエネルギーといったものはパソコンやスマホの画面を通じては再現できない。新型コロナウイルス対策としてオンライン授業が本格的に定着すると学校のあり方も大きく変わることだろう。それでも学生と教師がともに互いの熱量を感じる距離で学べる場が早く戻ってほしいと願う。特に大学教育においてはそれこそが本質と思えるのだ。

(プロトレイルランナー)

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