「愛の不時着」のヒョンビン 軍服→スーツに無事着陸
コラムニスト いであつし

遅ればせながら、韓流ドラマの沼にすっかりハマってしまった。韓流ドラマなんてまったくもって興味なかったのだが、いまや「梨泰院(イテウォン)クラス」でチョ・イソ役を演じたキム・ダミちゃんの大ファンであります。まわりに一緒に語りあえる韓流ドラマ沼仲間がおらず、今年はいつもとは違う夏を過ごしておりました。
韓流ブーム、今度はネット経由のドラマから
今は第4次韓流ブームだそうだ。第1次はヨン様ブームが巻き起こった「冬のソナタ」がはやった時。第2次はチャン・グンソクが大人気になり新大久保のコリアンタウンがにぎわって、東方神起やKARA、グンちゃんグッズ(チャン・グンソクのグッズ)が飛ぶように売れた時。第3次はBTSやTWICEといったK・POPアイドルが人気になり、新大久保でトッポッキやチーズタッカルビがブームになった時。
第4次韓流ブームの火付け役が、コロナ禍による巣ごもり生活で加入者が増加したネットフリックスで放映されて、いま大ブームのドラマ「愛の不時着」と「梨泰院クラス」である。そこで今回は筆者も沼にハマってしまった二大韓流ドラマのひとつ、「愛の不時着」のファッションについて考察してみたい。
ストーリーはいろんなところで語られているので詳しくは割愛させていただくが、ざっくり言うと、ソウルの財閥令嬢がアクシデントで北朝鮮に不時着してしまいエリート軍人に助けられて、かなわぬラブロマンスが繰り広げられる現実ではありえない物語。まぁそれだけ聞くとありがちな韓流ドラマなのだが、映画並みのアクションあり、サスペンスあり、コメディーありの実によくできた娯楽コンテンツで、韓流ドラマが苦手な筆者が観ても十分楽しめる。
北(朝鮮)に不時着してしまったソウルの財閥令嬢のユン・セリ(ソン・イェジン)を助けるエリート軍人リ・ジョンヒョクを演じているのが、ヒョンビンだ。第4次韓流ブームの沼にハマってしまった女性たちをキャーキャー言わせているイケメン俳優である。

劇中でのヒョンビンのファッションは、北(朝鮮)で物語が展開する前半では、軍人なのでほぼいつもミリタリールックだ。しかしこれが女性のみなさんをキャーキャー言わせている一番の要因でもある。
兵役を経験 「映える」ヒョンビンの軍服姿
ヒョンビンは軍服姿が実に似合う。実際に徴兵でも、最も過酷で厳しいと言われている海兵隊に自ら志願して入隊したらしい。坊ちゃん刈りの甘いマスクとは裏腹に、脱いだらすごい鍛えられた肉体が男の服の基本の一つでもあるミリタリーウエアによく映える。
わがままを言い放題のユン・セリに、黙って淡々とうまそうな麺料理を作ってあげたり、豆から挽(ひ)いてコーヒーを淹(い)れてあげたりするシーンのヒョンビンのリアルアーミールックがまた格好いい。O.D(オリーブドラブ)の長袖のヘンリーネックTシャツの袖を無造作にまくり、腕には大きめのごついアーミーウオッチ、パンツは迷彩カラーの6ポケットのカーゴパンツときたもんだ。

ドラマの後半、ユン・セリを助けるために悪役のチョ・チョルガン少佐を追って北(朝鮮)からソウルにやって来たリ・ジョンヒョク(ヒョンビン)のファッションもガラリと変わる。
ユン・セリに「南の人に変身しに行きましょ」と言われて、伊勢丹メンズ館のような高級百貨店のスーツ売り場に連れられてきて、次々とユン・セリが見立てたブランド物のスーツに着替えさせられるヒョンビン。まさに、逆「プリティ・ウーマン」状態である。

どんなスーツを着せられたかというと、まず、ノータイでシャツまでエンジ色でトーンを揃(そろ)えた、ラペルも細いひと昔前のプラダみたいなモードなスーツ。続いて、ピークドラペルの黒のスリーピースに、白のセミワイドのダブルカフスシャツにジャガード織りのタイ。次、ネイビーのスーツにジョン・スメドレー風なグレーのハイゲージのタートルニット。次、ネイビースーツにストライプのセミワイドシャツにネイビーのソリッドタイ。最終的には、シャツもタイもスーツもブラウン系のトーンで揃えてコートもブラウンのチェスターコートというモードなスーツスタイルに不時着する。
セレブの巣ごもり… 部屋着姿にも注目
ちなみにドラマ全編を通して、主人公のリ・ジョンヒョクはよくチェスターコートを着ている。そして足元は、北でも南でもスーツの時は必ずサイドゴアブーツを合わせている。
いずれにしてもユン・セリが見立てた「南の人」のスーツスタイルのセンスは、一言でいえば、「バーニーズニューヨーク六本木店」風といおうか「ユナイテッドアローズ六本木ヒルズ店」風といおうか、そんな感じですな。まぁ、ヒョンビンが着ればどんなスーツスタイルでも格好いいんですけどもね。
むしろ、筆者がドラマの中で一番イケてると思ったリ・ジョンヒョクのファッションは、ユン・セリの自宅の超高級マンションにかくまわれている時の部屋着スタイルだ。

見るからに上質な、おそらくカシミヤ製と思われるブルネロ・クチネリ風な杢(もく)グレーのスエットのフーディーにスエットのリブパンツ、その下に着た白い丸首のシャツもニットTで、靴もミニマムな真っ白いレザースニーカーを履いている。
これぞまさにラグジュアリーなセレブの巣ごもりスタイルではないか。こんな部屋着なら、リモートワーク中のウェブ会議でうっかり映ってしまっても何の心配も問題もない。むしろ女子社員からキャーキャー言われちゃうかも。なんたってアータ、「愛の不時着」のヒョンビンスタイルだ。

1961年静岡生まれ。コピーライターとしてパルコ、西武などの広告を手掛ける。雑誌「ポパイ」にエディターとして参加。大のアメカジ通として知られライター、コラムニストとしてメンズファッション誌、TV誌、新聞などで執筆。「ビギン」、「MEN'S EX」、JR東海道新幹線グリーン車内誌「ひととき」で連載コラムを持つ。
Netflixオリジナルシリーズ『愛の不時着』独占配信中
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