東南ア動画、地元勢疲弊 テンセントなどが買収

アジアBiz
2020/9/7 22:00
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タイでの動画配信サービス開始を発表する中国・テンセント(2019年6月、バンコク)=三村幸作撮影

タイでの動画配信サービス開始を発表する中国・テンセント(2019年6月、バンコク)=三村幸作撮影

東南アジアの動画配信市場で地元勢が苦戦している。利用者数2位のマレーシア企業を中国の騰訊控股(テンセント)が買収し、シンガポール・テレコムやソニー系が出資した4位企業は韓国企業の傘下に入った。米ネットフリックスなど巨大企業との体力勝負に疲弊しており、生き残りをかけた局面を迎えつつある。

東南アジアなど13カ国に1000万人超の会員を持つとされ「アジア版ネットフリックス」とも呼ばれるマレーシアのアイフリックス。動画配信アプリには今夏から、中国ドラマがずらりと並ぶ「ウィーTV」というコーナーが加わった。6月から親会社になったテンセントのコンテンツだ。

■低価格で集客、広告収入は伸びず

アイフリックスは低価格が特徴だ。マレーシアでの月額利用料は10リンギ(約300円)にすぎない。無料で楽しめるプランも用意して会員数を増やしてきた。新興国では無料の違法コンテンツも多く、高いと受け入れられないとみたからだ。

利用者数は東南アジア2位になったが、十分な広告収入が得られず経営に行き詰まった。日本経済新聞社が提携しているディールストリートアジアによれば、2018年に1億6000万ドル(約170億円)近い最終損失を計上した。19年はさらに悪化したという。

テンセントは19年にタイで動画配信サービス「ウィーTV」を始めて東南アジアに進出した。アイフリックス買収は「視聴者の幅を広げ、サービスの質を高める」(テンセント)ためだ。東南アジアの利用者数シェアは2割弱まで高まった。

テンセントは海外市場の開拓を急いでいる。中国ではアリババ集団系や百度系との競争が激化しているからだ。中国政府の規制強化により、投資回収が遅れがちになっている事情もある。制作に90億円を費やしたともされる時代劇「慶余年」は、当局の許可取得に難航し、撮影終了から公開までに約1年かかった。

動画配信サービスの利用者数で東南アジア4位のフーク(シンガポール)は今春、親会社のシンガポール・テレコムが「多額の資金を使う割に拡大の見通しがたたない」として清算を決めた。米ソニー・ピクチャーズや同ワーナー・ブラザースなど他の株主の力も借りてコンテンツをそろえたが、事業継続を断念。ソフトバンクグループが出資する韓国ネット通販クーパンの傘下に入った。

東南アジアの動画配信市場はまだ成長の初期段階にある。独スタティスタによると、20年の市場規模は5.5億ドル(約580億円)程度と米国や中国に遠く及ばない。一方、成長率は25%と世界平均の16%を上回る。

バンコクの公務員、タンチャニットさん(31)は「テレビは外国番組が少ないし、モザイクだらけで面白くない」として3種類の動画配信サービスを楽しんでいる。東南アジアでは宗教や教育などの観点からテレビ番組に厳しい規制をかけるケースが珍しくない。画質でもスマホがテレビに勝ることが多い。

■ネットフリックス、独自番組でシェア拡大

トップシェアを持つのがネットフリックスだ。タイ語やマレー語なども含め30近い言語に対応した豊富なコンテンツを持つ。中でも「ウィッチャー」など米国ドラマのほか、地元企業と組んで作った独自番組などで利用者を増やしてきた。

19年からはインドネシアなどで月300~400円程度の携帯端末限定プランを始めた。パソコンなどで利用する標準プランは約1000円だ。ネットフリックスは190カ国以上に1.9億人を超える利用者がおり、料金水準を低く設定しても収益を確保しやすい。

動画配信サービスは定額見放題が基本的な事業モデルのため、米国や中国といった巨大市場で実績を重ねた大手の優位は圧倒的だ。コンテンツの種類や、収入の基盤となる利用者数に加え、利用者ごとに「おすすめ」を表示するノウハウなどの蓄積もあるからだ。このままなら米中大手のシェア拡大が続きそうだ。

地元勢が巻き返すには、赤字が続いても耐えられる体力が必要だ。他のサービスで培った顧客基盤の活用も鍵になる。香港の通信大手PCCWが手掛ける「ビュー」の健闘は参考になりそうだ。

ただ、動画配信は米アップルなどネットフリックス以外にも多くの巨大企業が注力している。仏データクシスのアナリスト、オフェリー・ブーコー氏は「資金を投じ続けられるプレーヤーは限られる。地元企業はより激しい競争にさらされるだろう」と指摘する。

(バンコク=岸本まりみ、シンガポール=谷繭子)

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