シニア世代の医療保険 まずは公的制度を十分理解
Dr.マネーお悩み外来 Vol.10

Dr.マネーお悩み外来
生・損保
コラム
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2020/9/15 2:00
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本日もお金の悩みを抱えた人が「白鳥FP事務所zoom相談」にやってきました。「自分のお金は自分で管理運用できるように、一生困らないマネーリテラシーを身につける」をモットーにFP(ファイナンシャルプランナー)の白鳥京香がみなさまのご相談にお応えします。

Case4: 本日のご相談は、定年退職をしたDさん(男性、65歳)です。現在加入している医療保険の保障が70歳までなので、新しい保険に入った方が良いかというご相談です。Dさんは、加齢とともに医療費の負担が大きくなるのではと心配しています。
Dさんが加入している保険は、入院日額1万円で、生活習慣病で入院した場合は1万円が上乗せされるなど充実した保障内容で、保険料は月額約3万円です。

Dさん こんにちは。最近、友人が入院して個室で療養して「医療保険から入院給付金が出て助かった」という話を聞きました。やはり、歳をとると病気になりやすいでしょうし、医療保険は必要ですよね。ただ、今は仕事をしていないので、保険料の支払いも負担です。もっと安くて、よい保険に変えたいと思っています。

白鳥 「よい保険」とはどういう保険をイメージしていますか?

Dさん 入院1日目から給付金が支給されるのは当然として、日帰り手術や通院治療でも給付金が受け取れて、先進医療を受けた場合もカバーされるような保障内容が充実した保険です。

白鳥 なるほど。保険は一般的に、保障内容が充実するほど、年齢が上がるほど、持病があるなど健康でないほど、保険料は高くなります。今後、年金中心の生活で保険料負担を感じないで続けられる「よい保険」はあるでしょうか……。それより、まずは公的医療保険の内容を理解し、保険が本当に必要かどうかを考えてみましょう。

病院にかかったときの窓口負担は、70歳未満は3割ですが、70~75歳未満は2割です。現役並みの所得(標準報酬月額28万円以上・課税所得145万円以上)の場合は3割ですが、一人暮らしで年収383万円未満、2人世帯で年収520万円未満であれば、申請することにより2割または1割負担になります。さらに、75歳以降の後期高齢者医療制度加入者は1割です(一定所得以上は3割)。

Dさん 窓口負担も、年齢、収入などによって軽減されるのですね。

白鳥 さらに、医療費が高額になった場合は、「高額療養費制度」を利用することができます。1カ月(同じ月)に支払った窓口負担額が、自己負担限度額を超えたときに、その超えた金額が高額療養費として支給される制度です。

70歳以上で現役並み所得(窓口負担3割で、標準報酬月額28万円以上53万円未満・課税所得145万円以上)の場合、仮に100万円の医療費がかかっても、患者が支払うのは8万7430円です。

世帯単位で自己負担分を合算して支給されるしくみもあります。具体的にみてみましょう。

70歳未満の高額療養費の「世帯合算」は、自己負担額が2万1000円以上でなければできませんが、70歳以上なら金額にかかわらず合算できます。「一般所得者」に該当する夫婦の場合をみてみましょう。

夫が同じ月に、A病院、B病院、C病院にかかって、表のように窓口で支払いをした場合、自己負担額は、合計で5万3000円です。外来療養にかかる個人単位の自己負担限度額(高額療養費算定基準)は1万8000円ですので、高額療養費として3万5000円が支給されます。

同じ月に、妻がE病院の外来で2万円、F病院に入院して6万円の医療費がかかりました。外来での高額療養費は、同様に計算して2000円です。

「世帯合算」ができますので、夫婦の自己負担限度額の1万8000円と妻の入院の自己負担額を合算すると9万6000円です。医療費の自己負担限度額は5万7600円ですので、高額療養費として3万8400円が支払われます。

Dさん 実際の医療費は66万5000円かかっているけど、窓口負担は2割で13万3000円。そのうち高額療養費で7万5400円が支払われて、自己負担は5万7600円ということですね。

白鳥 少々ややこしい計算の過程をお見せしましたが、一般の区分に該当すれば、医療費が100万円かかっても300万円かかっても自己負担限度額は月額5万7600円ということです。

Dさん 医療費の負担はとても大きいイメージでしたが、貯蓄から払えそうですね。

白鳥 おっしゃる通り、公的保障はかなり手厚いので、貯蓄があれば、医療保険に入る必要はほとんどないと思いますよ。

Dさんのように、医療保険に入る目的として「がんになったら先進医療を受けたいから」という人がいますが、先進医療は公的医療保険の対象にするかどうかを評価する段階にある治療・手術などです。評価の結果、公的医療保険の対象に移ったり、評価の対象から外れたりします。先進医療の内容は時とともに変化するということです。今は80種類(2020年8月1日現在)です。値段は6万円代から300万円近くするものまで様々ですし、治療を受けられる病院も限られています。誰にとっても万能な魔法の治療ではありませんので、わざわざ「先進医療特約をつけたいから新しい保険に入り直す」などの必要はありません。

Dさん そうなのですか。でも、差額ベッド代は結構な金額かかりますよね。

白鳥 条件の良い病室を希望して入ると、大部屋との差額料金が全額自己負担になります。いわゆる差額ベッド代ですね。しかし、これはあくまで、患者や家族が希望した場合にかかるものです。例えば、救急、術後、病状が重篤な場合や免疫力が低下して感染症にかかるおそれのある患者、また、一般の病床が満室で、患者の希望によらず差額ベッド室に入院させられた場合などはかかりません。ですから、入院費用は抑えることは可能です。自分がどのような療養を望むのかよく考えて私的保険に入ることを検討すればよいでしょう。

Dさん 十分すぎる貯蓄があるとはいえませんが、万が一の時に医療費を払えるくらいはあると思うので、新しい保険に入り直す前によく考えたいと思います。

白鳥 私的保険は保険会社が決めた保険事由に該当したときしかお金は支払われません。それより、何にでも使える貯蓄がある方が安心です。では今日の処方箋です。

◇  ◇  ◇

・まず公的医療保険の内容を知り、私的保険が本当に必要か考える。

・もしものときを心配して保険に加入するより、しっかり貯蓄をしましょう。

ではまた2週間後に。

岩城みずほ(いわき・みずほ)

ファイナンシャルプランナー(CFP)。オフィスベネフィット代表。「金融商品を販売することによるコミッションを得ず、中立的な立場でコンサルティングする」をモットーに、NPO法人「みんなのお金のアドバイザー協会(FIWA)」副理事長も務める。著書に『「保険でお金を増やす」はリスクがいっぱい』(日本経済新聞出版社)など。https://www.officebenefit.com/
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