若手女性率いる、サッポロ「黒ラベル」が売れるワケ

日経ビジネス
2020/9/8 2:00
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黒ラベルの缶のデザインをシンプルに改めて、若い層に受け入れられやすい洗練されたイメージを追求してきた

黒ラベルの缶のデザインをシンプルに改めて、若い層に受け入れられやすい洗練されたイメージを追求してきた

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コロナ禍が長期化する中、消費の「巣ごもり」傾向が定着化している。特に食品市場では、外出自粛で苦戦する飲食店向けの業務用商品から、家庭用商品へと大規模な需要シフトが起きている。さらに、先行きに対する不安なども反映し、消費者が店頭でなじみのあるブランドを選択する「定番回帰」の流れが強まっている。

大手4社がしのぎを削るビール市場で、その変化を捉えることに成功しているのがサッポロビールだ。定番の主力ビール「黒ラベル」の1~6月の販売数量は、業務用の落ち込みから前年同期比で77%と下がった。一方、家庭で飲まれる缶商品に限定すると、同107%と前年を上回った。他社の主力ビールの缶商品と比較しても、アサヒビールの「スーパードライ」が同93%、キリンビールの「一番搾り」は同102%で、黒ラベルの伸びが目立つ。さらに単月で見ると黒ラベルの缶は、6月は同125%、7月は同122%と大きく伸びている。

価格が安い第3のビールやチューハイなどの「RTD(レディー・トゥー・ドリンク)」に押され、近年、業界全体でのビールの販売数量は減少を続けてきた。コロナ禍による収入や雇用への不安から低価格志向が強まっており、第3のビールやチューハイに比べて店頭価格が350ミリリットル缶1本当たり100円前後高いビールには逆風が吹いている。そんな中、なぜ黒ラベルが売れているのか。

■草の根への働きかけがコロナ禍で結実

1つは、業務用需要から家庭用需要への橋渡しに成功したことが挙げられる。「(コロナ禍の前は)業務用が好調だったが、外で飲んでいたビールを、家庭でも飲んでもらうことができた」と野瀬裕之取締役常務執行役員は話す。背景には、過去数年にわたる地道な取り組みがあった。

サッポロが実践してきたのは、飲食店のメニュー表記や使用するビールジョッキを「黒ラベル」に統一してもらうというものだ。黒ラベルを提供する飲食店の中には、メニューに「サッポロ生ビール」あるいは「サッポロ樽生」などと表記している店が少なくなかった。ジョッキも、「SAPPORO」という企業ロゴをあしらったものを使用する店が多かった。そのため、せっかく来店客に黒ラベルの生ビールを飲んでもらっても、ブランドに対する認知度や好感度にはなかなかつながらなかった。

そこでサッポロは、各地の飲食店に働きかけて、メニューには「黒ラベル」と表記し、ジョッキは黒丸に金星のマークが付いたものを使ってもらうように徹底する活動を、14年から本格化。ビールメーカーがファンづくりの入り口と位置付ける飲食店での飲用体験が、徐々に小売りの店頭での購買行動に結び付くようになっていった。コロナ禍で「外飲み」が制限される中、「家飲み」に黒ラベルを選ぶ消費者が増えた、というのが野瀬常務の見立てだ。

■脱・おじさんのビール

黒ラベルの缶商品が伸びているもう1つの要因は、ブランドの「若返り」に成功したことだ。

1977年に発売した黒ラベル(当時の名称は『サッポロびん生』)は、70年に登場した「男は黙ってサッポロビール」というキャッチコピーと俳優の三船敏郎氏を起用した広告とも相まって、男らしい、いなせなビールというブランドイメージを確立した。だが時を経ると若い世代からは「おじさんが飲むビール」というイメージを持たれるようになり、「1杯目はとりあえずビール」という価値観を持たない、若者のビール離れの中で苦戦を強いられるようになった。

若年層に「自分たちのビール」だと思ってもらう。この課題を達成するために、サッポロはこの10年、あの手この手のマーケティング施策を展開してきた。

1つは、2010年から続けてきた「大人エレベーター」シリーズのテレビCMだ。妻夫木聡氏が演じる青年が、各界の著名人に「大人とは?」「人生とは?」といった深いテーマについて尋ねる。「丸くなるな、星になれ。」というコピーを添え、自分なりの生き方を模索する若者世代の感性に訴えた。3月に放映を開始した作品では、若者の支持を集める人気バンド「King Gnu(キングヌー)」の常田大希氏を起用。そこには「男は黙って」の面影はない。

若い世代の感性に合わせて、缶のデザインもこまめに見直してきた。装飾や文字情報などを可能な限りそぎ落としたシンプルなデザインに改め、洗練された印象を強めてきた。黒ラベルの象徴である黒丸に金星のトレードマークが際立つようになり、多くの商品が入り乱れる店の棚でも目に留まりやすくなった。

さらに、各地の野外フェスなど若者が集まる大型イベントに黒ラベルを前面に押し出した出店を展開するなど、地道なファン拡大の取り組みも進めてきた。今年の1~3月に実施した市場調査では、過去1年以内に黒ラベルを飲み始めた新規客のうち、20代と30代の男性だけで、半数近い45.2%を占める結果となった。外食の機会が比較的多いこの層が、新型コロナで「家飲み」に転じたことで缶商品の消費が大幅に増えた可能性が高い。

4月、サッポロは大胆な人事に踏み切った。黒ラベルのマーケティング戦略を預かるブランドマネジャーに、異例の若手女性社員を据えたのだ。同社マーケティング本部の齋藤愛子課長代理は、10年に入社しマーケティング畑を歩み、現存する日本最古のビールブランドとされる「サッポロラガービール」などのブランドマネジャーを担当してきた。「ターゲット世代と同じ目線を持ち、性別や年代を超えて人の価値観の奥を見ることができるマーケッターが必要だった」。齋藤氏を黒ラベルのブランドマネジャーに起用した理由を同社はこう説明する。

黒ラベルのブランドマネジャーを務める、サッポロビールマーケティング本部の齋藤愛子課長代理

黒ラベルのブランドマネジャーを務める、サッポロビールマーケティング本部の齋藤愛子課長代理

サッポロラガービールは、ラベルに赤い星印を冠することから「赤星」の愛称で赤ちょうちんで好まれてきたが、近年の大衆酒場ブームによって、若者や女性のファンをじわじわと増やしてきた。だが齋藤氏は、新しいファンにすり寄るようなマーケティングはあえて避けてきたという。「ブレずにこびない、知る人ぞ知る商品を、今の消費者は求めている」(齋藤氏)と判断したからだ。

代わりにサッポロは講談社と連携して「赤星★探偵団」と銘打ったサイトを16年に立ち上げた。文化人や芸能人が、赤星を置く飲食店を訪ね、店のたたずまいや料理を楽しみ、店主の人柄や店の歴史に触れる様子を記事にして、アーカイブ化した。商品そのものを売り込むのではなく、それを取り扱う「店」を前面に出すことで、「情緒価値」を高めることに成功した。

齋藤氏は、若者に人気のアパレルショップ、ビームスとの連携を開始。10月以降、黒ラベルの6缶パックと24缶入りの箱に、独自デザインのタオルやポーチを景品として付ける。10月の酒税改正により、ビールの酒税が減税になり、第3のビールは増税になる。若い消費者を地道に開拓することで、黒ラベルの缶の販売数量は、20年実績で6年連続の前年超えを見込む。新たなビール復権の流れをつくれるか、業界4番手の意地が試される。

(日経ビジネス 吉岡陽)

[日経ビジネス電子版2020年9月3日の記事を再構成]

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