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片山元総務相「安倍政権7年で霞が関はガタガタに」

片山善博(かたやま・よしひろ)氏、1951年岡山市生まれ。74年東京大学法学部卒業、自治省(現総務省)に入省。自治大臣秘書官、固定資産税課長などを経て、99年鳥取県知事(2期)。2007年4月慶應義塾大学教授。10年9月から11年9月まで総務相。同月慶應義塾大学に復職。17年4月から現職。 『民主主義を立て直す 日本を診る2』(岩波書店、2015年)など著書多数。 (写真:竹井 俊晴、2019年4月撮影)
日経ビジネス電子版

安倍晋三首相が8月28日、辞任する意向を表明した。7年8カ月に及ぶ歴代最長政権を可能にした要因として、内閣人事局の創設など官邸の権限強化は大きい。一方で、政権の後半には、霞が関の人事権を掌握した副作用も目立った。学校法人森友学園(大阪市)を巡る財務省の公文書改ざん問題をはじめ、霞が関には官邸に対する忖度(そんたく)がまん延するように。自治省(現総務省)出身で、後に総務相も務めた早稲田大学公共経営大学院教授の片山善博氏に、安倍政権下での官邸と霞が関の力関係の変化や、次期政権の課題について聞いた。

――安倍晋三首相が辞任を表明しました。

「辞められるのがちょっと遅かった印象ですが、だらだら続けられるよりはよかったと思います」

「新型コロナウイルス対策という課題があるにもかかわらず、野党の求める通常国会の会期延長や臨時国会の早期招集を拒否していた。野党との論戦を避ける傾向は以前からありましたが、今回はとりわけそうした姿勢が強かった。体力気力が萎えていたのかなと思います」

■「地方分権」今では誰も口にしない

――安倍政権の7年8カ月を振り返って、どのような印象を持たれますか。

「この7年8カ月で霞が関の官僚機構はガタガタになってしまいました。官僚機構は国民の一つの財産なのでこの立て直しは急務です」

「また、地方自治にも課題を残しました。制度改正こそしませんでしたが、中央集権的な傾向はかなり強まりました。『地方分権』といった言葉は今では誰も口にしません。地方創生についても、今回のコロナ対策についてもそうですが、中央が地方をこと細かにコントロールしようとして、うまくいかないケースも多い」

「霞が関の官僚機構がのびのびと仕事ができる。地方のことは自主的に地方が運営する。次の首相にはこの2点を実現してほしい」

――官僚機構がガタガタになったのは、内閣人事局の創設が理由でしょうか。

「制度が悪いという人は多いですが、内閣人事局の創設に代表される官邸の権限強化は悪意なき改革です。かつては、『省あって国家なし』と省益の追求ばかりで、霞が関はバラバラだったわけです。国民の代表たる国会がつくった政権の方を向くようにするのは悪いことではない」

「ただ、本来は政権の背後に控える国民の方を向いて仕事をするように指導しなければならなかったのに、現政権は人事権を盾に『政権に忠実たれ』と霞が関を抑え込んだ。政権の言うことを聞くか聞かないかを評価軸にして、言うことを聞かないやつはどんどん飛ばす。制度を悪用したわけですね」

「見識のある政治家がリーダーとなって、政権と霞が関が一致して国民の方を向いて仕事をするように変えなければなりません」

■直言する気骨が失われた

――見識のある政治家というのが現実問題としているのでしょうか。仮にいたとしても権力の座に就けば変質してしまう恐れもあるのではないでしょうか。

「これまでのように質の悪い政治家が続くのなら内閣人事局は害悪でしかないですし、潰すしかありません。かつての官僚組織には問題もありましたが、プロフェッショナルとして国民に奉仕するという気概を持った方もたくさんいました。内閣人事局が悪用されている現在よりも過去の方が相対的にマシです」

「役所のいいところを潰してしまいました。今の霞が関の雰囲気はこうです。国民のためではなく政権に言われたことをやる。それで失敗したら官邸のせいにして留飲を下げる。国民のためにならないのであれば、直言する気骨が失われてしまいました」

――官邸と距離の近い経済産業省を除いて、霞が関には冷笑的な雰囲気が漂ってますね。

「オンライン申請による10万円の早期支給が実際にできっこないというのはみんな知っていたわけです。国土交通省もおそらく、『Go Toトラベル』キャンペーンには内心あきれつつも言われた通りにしたのだと思います」

「経産省出身が多数を占める官邸官僚が発案し、上意下達で霞が関は従うといった態勢がすっかりできあがったところに、コロナが来ました。官邸官僚は感染症については素人なので的確な指示が出せませんが、霞が関は指示待ち状態。その結果、アベノマスクや国民1人当たり一律10万円給付といったおかしな政策が出てくることになったのだと思います」

「人間得意なことでこそ足をすくわれるといいますが、霞が関を押し込んできたツケが回った結果の退陣とも言えるでしょう」

■内閣人事局なんていらない

――霞が関の正常化に向けて、何か具体策はありますか。

「大臣にちゃんとした人を登用することです。見識と人望のある人が大臣に就けば、各省庁は自ずと政権そして国民の方を向きます。内閣人事局なんていらないわけです。民主党政権もそうでしたが、歴代内閣はとても大臣には向かないような人を年功序列や派閥の論理で起用してきた。こうした根本をおろそかにしたままで、官僚ばかりに厳しくしてきた」

――次期政権にほかに、注文はありますか。

「財政金融の後始末をつけるのも次の内閣の仕事です。アベノミクスでやれ株高だ、やれ有効求人倍率が回復しただと、盛り上がっていた裏で金融は八方塞がりになっています。日銀が株を買い支える株式市場も異常です」

「財政も財政で、コロナ対策だといって100兆円規模もの出動をする。破綻への道をひた走っているとしか思えません。コロナ禍の現段階にあっては、金融引き締めや財政出動の縮小ができないことは分かりますが、今後の見通しについて語る必要があります」

「少し長い目で正常化に向けた道筋を語れる人がリーダーにならなければ、どんどん坂道を転がり落ちていくばかりです」

(日経ビジネス 奥平力)

[日経ビジネス電子版2020年9月2日の記事を再構成]

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