夏競馬、東西の実力差あらわに 変則日程の課題も

通常とは異なる日程で行われた2020年の夏競馬も6日で終了する。今夏は東京五輪が予定されていたことから、7月25日~8月9日の西日本地区の競馬は休止に。例年、この時期は関東馬が主に新潟、関西馬は小倉のレースに出走するが、20年は新潟で東西の所属馬がぶつかり合い、関西馬が関東馬を圧倒する結果となった。変則日程で東西格差が改めて浮き彫りとなった。
今夏はレース数が減り、陣営が出走させたいレースに馬を出せないケースもみられた。新型コロナウイルス感染拡大の影響から東京五輪開催は1年延期される予定で、21年の競馬も同様の日程となる可能性がある。解決すべき課題も浮かび上がった。
関西馬49勝、関東馬23勝の「西高東低」
日本中央競馬会(JRA)は東京五輪の馬術競技に獣医師や馬運車を派遣することになっていた。例年、この時期は新潟、小倉、札幌の3競馬場でレースを行ってきたが、3場での開催に必要な獣医師や馬運車を確保できないため、五輪が予定されていた期間中は開催場を2つに縮小。夏の暑さ対策もあり、気温の高い小倉での競馬を休止する、異例の変則日程を組んだ。
小倉の休止期間中は「自ブロック優先」制を適用外とし、関西馬でも新潟のレースに出走しやすいようにした。この制度は通常時、平地競走の下級条件である未勝利戦と古馬1勝クラスで適用されるもので、東日本の主場開催では関東馬が優先され、フルゲートに達しない場合のみ関西馬が出走できる。西日本ではこの逆となる。自ブロック制が適用外となった結果、7月25日~8月9日の新潟では、ほぼすべてのレースで東西の馬が顔を合わせることになった。
結果は完全な「西高東低」だった。この期間、関東馬が23勝だったのに対し、関西馬は49勝。連対率でみても関西が16.0%と関東の9.1%を大きく上回った。
新潟は夏季の東日本の主場とはいえ、関西馬の調教拠点、栗東トレーニング・センター(滋賀県栗東市)からも高速道路で6時間半。関東馬の拠点である美浦トレーニング・センター(茨城県美浦村)の6時間と差が無い。こうした事情もあり、実力に勝る関西馬が勝ちまくった。行き過ぎた西高東低という日本競馬のいびつな構造が改めてあらわになった格好だ。
札幌で出走頭数減、新潟で出走ラッシュ
第3場の扱いとなる北海道の開催も例年とは違った。札幌開催期間中の函館競馬場での馬の滞在が認められなかったのだ。函館には滞在馬の調教用に脚元への負担が軽いウッドチップ(木くず)のコースが設置されている。函館で調教を積み、週末に札幌に輸送してレースに出走するという馬も多かったが、今年は新型コロナの感染防止のために移動を制限し、これが不可能になった。
滞在できる競馬場が札幌だけに限られることから、札幌競馬では出走頭数が減ることが予想された。実際、2場開催だった7月25日~8月9日の期間でも、10頭立て以下の少頭数のレースが前年同期の21から26に増えた。前年は無かった6頭立て以下のレースも4つ出現した。

変則日程と、函館滞在ができず札幌のレースにも使いづらいという状況から、新潟では出走ラッシュが起こった。希望馬でフルゲートを超えるレースも目立ち、出走申し込み(出馬投票)をしても抽選で除外され、レースに出られない馬が例年より多く出た。8月15日に開幕した小倉も同様の傾向だが、新潟はより深刻だ。
新潟では他の問題も起こっている。16日の新潟での障害未勝利戦では出走頭数がフルゲートの14頭に満たなかったにもかかわらず、出走希望の関西馬が出られなかった。
通常、関西馬が夏の新潟への出走を希望する場合、出張馬房を事前に確保しなければレースへの出馬投票ができない。変則日程の期間中はそうした制限も取り払われ、出走希望馬はすべて出馬投票できたが、同15日の小倉開幕と同時に通常のルールに戻った。
15日の週は、前3週が2場開催でレースに出走させづらかったこともあり、新潟では各クラスとも出走希望馬が集中。出張馬房の確保が難しくなった。関西馬向けの限られた数の馬房は、上級クラスの馬から優先して割り当てられていく。優先順位下位の障害馬は出張馬房を確保できず、出馬投票すらできなかった。
平地の馬優先、障害馬の状況厳しく
2歳の新馬戦でも同様の現象が起こったが、障害馬の置かれた状況はとりわけ厳しかった。JRAが「平地の馬の出走機会確保を優先」したため、2場開催の期間中、障害戦は重賞が1つ組まれただけ。未勝利戦、重賞以外のオープンのレースは全く行われなかった。レースの再開を待っていた障害馬も多かったが、再開後は制度の壁に出走を阻まれた。結局、16日の新潟の障害未勝利戦は関東馬だけの11頭で行われた。
変則日程については「対応できるよう準備をしていた。出走希望馬が増えるのも想定していた」(栗東のある調教師)という厩舎関係者も多い。だが、そうした関係者からも「今回の障害戦のケースは気の毒」「ファンにわかりづらい理由で頭数割れするのはよくない」との声が上がる。
新型コロナの感染拡大により、現段階で東京五輪は21年夏に延期される予定。競馬の日程も20年と同様となる可能性もある。制度の改善は必要だろう。JRAは「20年の状況を検証し、必要に応じて対策を検討したい」としている。
(関根慶太郎)